マンションの管理費を滞納するなど共同の利益に反する(義務違反)行為への対処法

投稿日:2022年3月27日 更新日:

 

区分所有マンションには、価値観やライフスタイルが異なる不特定多数の人が共同で生活してるので、共同(みんな)の利益に反する行為をしてはならないと法律で規定されてます。

といっても不特定多数の人が住んでいる以上、他の居住者に迷惑をかける人も出てきます。

そこで区分所有法では、建物の管理・使用に関して共同の利益に反する行為を行う人に対する請求が認められています。

区分所有者・占有者の義務と義務違反者への請求

建物や敷地はみんなの共用なので、区分所有者や占有者(賃借人等)は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないとされています。

例えば建物全体の安全性を損なうような破壊をしたり、管理費・修繕積立金の滞納で建物の修繕に重大な影響が出るような場合等です。

一方、隣同士のケンカや個人を誹謗中傷するだけ等、特定の区分所有者間の問題は共同の利益に反する行為にはならないとされてます。

 

ただし、管理組合の役員を誹謗中傷した内容の文書を配布し、マンションの防音工事業者の業務を妨害する等、特定の個人に対する誹謗中傷行為の域を超え、マンションの正常な管理又は使用が阻害される場合は、区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるとみる余地があります(最判平成24.1.17)。

 

区分所有法では、共同の利益に反する行為をする義務違反者に対して、行為の停止(57条)、使用禁止(58条)、競売(59条)、占有者に対する引渡し(60条)といった請求を規定しています。

これらの請求では、区分所有者や占有者に対して弁明の機会の付与が与えられます。

弁明の機会の付与は、共同の利益に反する行為をする義務違反者に対して、言い分を述べる機会を与えることです。使用禁止や競売が認められると多大な不利益を受けるので、自分の身を守るための機会が与えられるわけです。

 

区分所有者と占有者に対する行為の停止等の請求(57条)

区分所有者または占有者(賃借人等)が、共同の利益に反する行為をした場合、するおそれがある場合は、区分所有者の全員または管理組合法人は、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、その行為の予防をするため必要な措置をとることを請求することができます。

・行為の停止

・行為の結果の除去

・行為の予防

 

また、行為の停止等の請求では、弁明の機会の付与(相手の言い分を聞くこと)は不要とされています。

 

請求する場合は、裁判上でも裁判外でもできますが、裁判による場合は集会の普通決議(過半数)が必要です。

 

区分所有者に対する使用禁止の請求(58条)

区分所有者の共同生活上の障害が著しく、行為の停止等の請求(57条)では、その障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができます。

 

使用禁止の請求では、義務違反者の区分所有者に対して、あらかじめ弁明の機会の付与が必要です。

 

また、使用禁止の請求は、集会の特別決議(3/4以上)により、裁判によって請求する必要があります。

 

区分所有者に対する区分所有権の競売の請求(59条)

区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によっては、その障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、その区分所有者の区分所有権および敷地利用権の競売を請求できます。

 

この場合の競売は、区分所有権および敷地利用権を奪うことが目的なので、競売の買受可能価額が手続き費用や債権額を下回るような場合でもできるとされています。つまり、部屋の売却額が、費用や滞納額を下回る(損する)場合です。

 

区分所有権の競売の請求も、義務違反者の区分所有者に対して事前の弁明の機会の付与が必要です。

 

そして、競売の請求も集会の特別決議(3/4以上)により、裁判によって請求する必要があります。

 

競売請求を認める判決に基づく競売の申し立ては、判決確定日から6か月を経過する前に行う必要があり、過ぎると出来なくなります。

 

占有者に対する引渡しの請求(60条)

区分所有マンションの一室を他の人に貸し出すということはよくあります。

占有者というのは、部屋を借りている借主だけでなく、不法占拠している人も該当します。

 

部屋の借主は、建物の使用方法については管理規約や使用細則といったルールを守る義務があります。

といっても中にはルールを守らない人はいますから、区分所有法では義務違反者に対する引渡し請求が認められています。

 

区分所有者の全員または管理組合法人は、集会の決議により、訴えをもって賃貸借契約の解除および専有部分の引渡しを請求できます。

転貸借されている場合は、転貸借契約の当事者(転貸人および転借人)を相手に裁判上で請求することになります。

 

占有者に対する引渡し請求は、あらかじめ占有者に弁明の機会を与え、特別決議(3/4以上)による集会の決議があればできます。

引渡し請求が認められ、専有部分の引渡しを受けたときは、遅滞なく専有する権限を有する者(転貸借の場合は賃借人)に引き渡します。

 

区分所有法59条に基づく競売申し立てで滞納管理費が2400万円から200万円に減った例

以前読んだ新聞(朝日)に、神奈川県のY市にある区分所有マンションで、管理会社を替えたときに管理費等の滞納が2,400万円あることが発覚したとありました。

このマンションの前は何度か通ったことがあるので、この記事を見たときは驚きました。

組合員の中には、入居時から管理費および修繕積立金を一度も支払わない人もいたそうで、弁護士を雇って解決を試みるもなかなか進まず、数年経って最後は別の弁護士が区分所有権の競売請求をしたそうです。

おかげで100人いた滞納者も30人まで減り、滞納金も200万~300万円までに減ったそうです。

 

区分所有法59条に基づく競売の申し立てでは、訴えが認められる例もある一方で認められないこともあります。

競売請求は、区分所有者の権利を競売という手段を用いて強制的に排除するので、57条の停止等の請求や58条の使用禁止請求では解決が困難である場合に最終手段として認められるのが一般的です。

判例でも競売以外の手段で滞納管理費の回収する途がある場合や既に区分所有権を譲渡してる場合には競売の申し立てを認めなかったものがあります。

 

まとめ

義務違反者に対する各措置

訴える相手 措置 請求の方法 弁明の機会
区分所有者・占有者 行為の停止等の請求 訴訟外・訴訟上(普通決議)で請求 弁明の機会不要
区分所有者 使用禁止請求 裁判上(特別決議)で請求 弁明の機会必要
区分所有者 区分所有権の競売請求 裁判上(特別決議)で請求 弁明の機会必要
占有者 引渡し請求 裁判上(特別決議)で請求 弁明の機会必要

行為の停止等を請求する場合、口頭によって停止を請求するときは集会の決議は不要ですが、訴訟での停止の請求は集会の普通決議が必要です。

普通決議は過半数、特別決議は3/4以上が必要(区分所有者および議決権)。

弁明の機会の付与は、行為の停止の請求には不要。

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