最低賃金審議会で令和5年10月からの最低賃金の目安が取りまとめられました。
最低賃金というのは、企業や事業主が労働者に支払わなければいけない賃金の最低額で、時間給で定められています。
最低賃金というと多くは都道府県ごとの最低賃金を定めた地域別最低賃金を指し、神奈川県では前年(1,071円)から41円の引き上げとなる見込みです。
この時期になると毎年最低賃金が話題になりますが、同時に話題に上がるのが「年収の壁」の問題です。
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なぜ最低賃金を定めるのか

最低賃金制度は、以下のことを目的として設けられています。
- 労働者の生活を保障する
- 労働力の質を向上させる
- 事業間の公正な競争環境を守る
最低賃金が引き上がれば消費が増え、結果として税収アップにつながるため、経済活性化の役割も担っています。
一方で、企業側にとっては人件費の上昇といった負担が生じます。 とくに中小・個人企業では体力がなく、最低賃金の引き上げに耐えられないケースも少なくありません。
そこで、最低賃金の引き上げを検討する際に
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企業の賃金支払能力
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労働者の生計費(消費者物価指数等)
が考慮されます。
最低賃金が引き上げられても労働者に支払えないといった使用者には残念ですが倒産、閉店してもらうしかなく、生き残るために生産性向上を実施して助成金などを活用したり、価格に転嫁して値上げすることも必要です。
労働者の生計費を考える時に参考になるのが消費者物価指数ですが、消費者物価が上昇してるのに賃金がともなわないのでは救われません。現在の日本の経済がこの状況に陥っています。
働き方を制限してしまう「年収の壁」

パートや非正規で働く人の中には、収入を一定以下になるように調整している人がいます。
いわゆる扶養といわれる人たちで、扶養から外れると厚生年金保険料や健康保険料といった社会保険料がかかったり、所得税や住民税といった税金を多く支払うことになります。
理由は明確で、社会保険料の発生、配偶者控除・特別控除のため、税負担の増加など、こういったことにより手取りが減ってしまうからです。
このように配偶者の収入が一定以上になると、配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなったり、社会保険料の納付義務が生じます。
これらは「年収の壁」といわれ、パートや非正規で働く人の社会での活躍を妨げています。人手不足解消のためにもスキルや能力がある人が年収の壁を気にせず働ける環境が必要です。
年収の壁はいくらなのか(モデルケースで解説)

以下、年収の壁についてモデルを用いて解説します。ちなみに国民健康保険の場合は扶養というものがないので、それを考慮したモデルにしてます。
モデルは、厚生年金保険の適用事業者で正社員として働く納税者(夫)と、その配偶者でパートとして働く主人公(妻)の年収についてです。妻が適用事業所で働いて、夫がパートとして働く場合は逆になります。
- 夫:正社員(納税者)
- 妻:パート勤務
以下、パートとして働く人(妻)の年収についての壁です。
●100万円の壁
市町村によりますが、年収が100万円を超えると住民税の納付義務が生じます。
●103万円の壁
年収が103万円を超えるとその妻に所得税の納付義務が発生し、夫は配偶者控除を受けられなくなります。
- 妻に所得税の納付義務が発生
- 夫は配偶者控除を受けられない
●106万円の壁
一定の人(妻)の年収が106万円を超えると、国民年金の第3号被保険者となり厚生年金保険料が発生し、健康保険の扶養から外れて健康保険料の納付義務が生じます。
対象になるのは、従業員が101人以上の企業(2024年10月から51人以上の事業所)で、雇用期間が2か月を超え、週20時間以上勤務し、年収が約106万円以上(賃金月額が8.8万円以上)となる、学生でない人です。
◎106万円超で、下記に当てはまると社会保険料が発生
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厚生年金の適用事業所(社員101人以上 → 2024年10月から51人以上)
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雇用期間2か月超
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週20時間以上
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年収106万円以上(賃金月額8.8万円以上)
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学生は除く
●130万円の壁
106万円の壁の要件を満たしてなかった妻も130万円を超えると社会保険料の納付が必要になります。
- 106万円の条件に該当しない人も社会保険料が発生
●150万円の壁
妻の年収が150万円を超えると、所得に応じて夫の配偶者特別控除が減ります。
所得税の計算で控除できる金額が減るので手取り額が減ることになります。
- 夫の配偶者控除が減額
●210万円の壁
妻の年収が201.5万円を超えると夫は配偶者特別控除が受けられなくなります。
- 配偶者控除がゼロになる
おわりに|最低賃金を上げても「壁」で労働時間が削られる矛盾
このままであれば、賃金が上がっても年収の壁内に収まるよう労働時間を減らすことになるので、その結果労働力不足が加速することになり、これでは本末転倒です。
せっかく労働者にやる気とスキルがあり、最低賃金が引き上げられたとしても、年収の壁以下になるように労働を調整していては経済は悪化するだけです。
年収の壁を超えてしまうことで社会保険料が発生し、手取りが減ってしまうのが106万円、130万円の壁です。
たとえば年収が130万円を超えると約保険料が18.4万円発生します(厚生年金保険料率18.3%と健康保険料率10%で計算)。
納付した分だけメリットがあるのは厚生年金と健康保険の手当金くらいでしょうか。
最低賃金を上げるだけでは、人材確保にはつながらないので、それにあった制度改革が必要です。

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