住まいを買うか借りるかは人生の大きな選択肢です。
毎月支払う家賃と住宅ローン、将来の売却価値、修繕費、税金……これらを長期視点で比べないと、住み心地ではなくお金の損得で損してしまうこともあります。
最近は人口減少、空き家増加、建物の老朽化などの事情が絡み、かつてのように家が資産という常識が通用しなくなってきました。
日本では、長く賃貸派と持家派が争ってますが、これらを比較してもほとんど意味がありません。
費用面で生涯コストは同じくらいというFPもいますが、そもそも比較する前提が間違ってることが多く、同じということはあり得ません。
過去に私が見た例では、月12万円のアパートと住宅ローン12万円とを比較したものがありましたが、ボロアパートの2LDKと新築の4LDKとを比較した時点で、誰が見ても無理があります。
持家は住宅ローンの他にも修繕費や税金がかかるので、せめてコストを合わせる必要がありますが、それでも建物のグレードに差が出てしまいます(持家の方がグレードが上)。
また、持家であっても一戸建てと分譲マンションを比較した場合は総コストに大きく差が出ます。
一戸建ては土地が資産として残りますが、外壁や屋根などの修繕が個人負担です。分譲マンションも修繕積立金や管理費が継続的にかかりますが、長い目で見ると一戸建てよりコスト面で高額になりがちです。
賃貸か持家かを月々いくら支払うかだけで比べるのはリスクです。重要なのはライフプラン全体でどの選択がその人にとって柔軟で安心かという視点です。
賃貸のメリットとデメリット

一般的に賃貸のメリットとして以下のようなものがあると言われます。
・気軽に引越ができる(通知だけ、審査が緩い)
・維持コストが分かりやすい(家賃、更新料、更新時保険料、保証費、管理費)
・初期費用が安い(頭金・諸費用がない)
・設備の修理費を負担しなくてよい
・資産価値を気にしなくてよい
特に引っ越しが気軽にできる点は大きなメリットです。ライフイベントに応じて引越しが可能です。
気軽に引越できれば住む場所の選択肢も多くなり、駅前のマンションにも住めます(持家は気軽とはいえない)。
また、近隣トラブルで引っ越しを考える人は多く、持家でトラブルが起きると大変です。その点、賃貸ならトラブルがっても引越せば済みます。
たいして賃貸のデメリットには以下のようなものがあります。
・資産が残らない
・一生賃貸料が発生する
・持家と比べて建物が貧相
・家賃の値上がりリスクがある(インフレ)
・楽器やペットに制限がある
一生賃貸料が発生するのはデメリットですが、賃料が安いエリアに引越しが可能です。年金は都会も田舎も同じなので、田舎に家を買ってしまうというのも手です。
ただ、田舎に引っ越したものの馴染めず戻る人も多いです。
持家のメリットとデメリット

持家のメリットには以下のようなものがあります。
・資産として残る
・子供に相続させることができる
・住宅ローンを完済すれば年金生活でもやっていける
・税金で優遇されている(住宅ローン控除、買い替え特例、3000万円特別控除)
・一戸建ては楽器とペットの飼育が自由(マンションは規約次第)
・一戸建ては駐車場の費用がかからない(駐車場有)
資産として残せるのはメリットですが、田舎の場合は資産にならないこともあります。また、持家であっても一戸建てとマンションとでは随分と違うので、自身のライフスタイルに合っているかも重要です。
一方で持家にもデメリットはあります。
・頭金や諸費用が必要
・引越しに手間がかかる
・設備の修理やリフォーム代がかかる
・管理費、修繕積立金がかかり、インフレリスクがある
・マンションのほとんどは修繕積立金が値上がりする前提
・災害のリスクがある
・場所が悪いとコストだけがかかる負債のような存在になる
分譲マンションは強制的に修繕積立金が徴収されますが、一戸建てであっても修繕は必要なので、毎月定額を積み立てると安心です。
売れないような田舎の場合は、早く手放すことがリスク回避になることがあります。
賃貸と持家

以前、不動産会社で現地販売会をしていた時のことですが、そこでは8棟の建物が売りに出ていました。
そこの建物は土地付きで3,580万円から4,280万円で売りに出ましたが、3,580万円の2棟だけが売れ残りました。
そのうちの1棟が売れたと思ったら、数日して賃貸物件として貸し出し募集がされました。
この場合の賃貸と一戸建てはどちらも同じグレードの物件になるので、比較ができると思い例として取り上げました。
●持家の場合
35年ローン 金利0.625% 月々95,000円
固定資産税 月10,000円
修繕費の積立投資 月13,000円(→7%で10年後220万円)
合計 118,000円
●賃貸の場合
家賃 165,000円(駐車場付き)
更新料・保険料・保証料など 1月あたり換算→14,000円
合計 179,000円
募集していた家賃は180,000円でしたが、その後の経年劣化や空室リスクを考慮して165,000円にしました。
投資として物件を購入したら金利が高くなることを踏まえると、コスト面に限れば持家が有利なのは間違いありません(自身が損する契約をする投資家はいない)。
持家の場合は変動金利なので金利が上がるリスクがあります。それでも賃貸に住み続けるよりは安く済むのが一般的です。
●同じ建物(戸建て)でのコスト比較
- 持家 118,000円(金利リスクあり・将来のリフォーム費用)
- 賃貸 179,000円(老朽化すれば家賃が安くなる可能性)
最近、住宅ローンの金利が上がったことが話題になりましたが、その一方で賃貸の家賃が1.5倍になったことも話題になりました。値上がりした家賃の額が適正かは議論の余地がありますが、インフレ時代はこのように家賃が上がるリスクがあります。
家賃の上昇により、特に都内では今後、学生や若い世代が一人暮らしできなくなるといった懸念がされています。
利便性を優先するなら戸建てよりもマンションですが、マンションであっても自分が損して賃貸に出す人はいないので、賃貸だとコストが高くなります。
賃貸派が持家派をコスト面で上回るには建物のグレードをどこまで下げるかがポイントです。
- 持家→価格・維持費が上昇していく懸念
- 賃貸→家賃が値上げしていく懸念
一戸建てと分譲マンション

持家といっても一戸建てと分譲マンションとではコストに大きな開きが出ます。
分譲マンションは利便性や防犯性にメリットがありますが、コストという面ではむしろ賃貸に近い(コスト高い)かもしれません。
一戸建てと分譲マンションは全然違うので単純に比較できませんが、分譲マンションは固定資産税が少し高く、何より管理費と修繕積立金が毎月かかります。
インフレは管理費と修繕積立金の値上がり要因となりますし、そもそも修繕積立金は5年ごとの見直しで値上がりするのが普通です。
修繕積立金の積立方法には、均等積立方式と段階増額積立方式の2つがありますが、多くのマンションでは段階増額積立方式を採用しています。
均等積立方式が長期修繕計画で計画される工事費用を計画期間内に均等に積み立てる方式なのに対して、段階増額積立方式は最初の修繕費を抑えて段階的に積立て額を増額する方式だからです。
均等積立方式が本来は望ましいのですが、最初から修繕積立金が高いとマンションが売れないので、多くのマンションでは段階増額積立方式になっています。中には最初に一時金を徴収したり、金融機関から借入をすることを前提として積立計画を立てることもありますが、それでも原則的に値上がりしていくと見た方がいいでしょう。
また、修繕積立金を徴収していても、建替えでは資金が不足するのが普通なので、建替え費用が徴収されるリスクも考えられます(資金不足で建替えができないことがほとんど)。
このような理由から分譲マンションは賃貸より安く、一戸建てより総コストがかかるといわれています。
一方でマンションは戸建てよりも防犯性が高く、修繕は自分で考える必要がない等メリットもあります。
- 一戸建て→建て替えのタイミングは自分で決められる
- マンション→建て替えのタイミングを自分で決められない
- マンションの建替え→最低2,000万円以上必要といわれている(売却可)
- 賃貸→働き続ける・家賃の安い場所に引越す
まとめ
・賃貸と持家論争は時間の無駄→お金の面では持家が有利
・賃貸と持家にはそれぞれのメリットとデメリットがある
・賃貸は気軽に引越しできる
・家を購入すればよかったと後悔している賃貸派が多い
・持家は資産になる一方、田舎だと負債になりかねない
・持家は住宅ローンのリスクがあるが、賃貸は家賃値上げのリスクがある
・持家の一戸建てはコストを抑えられ、分譲マンションは防犯、管理が楽
・生涯コストの面では、一戸建て、分譲マンション、賃貸の順に優れる
引越す前提だったら賃貸が有利ですが、住み続けるとなったらもう結果は出ています。
持家か賃貸のどちらにするかを選ぶポイント
- 初期費用・維持費
- 流動性・住みやすさ
- 将来の資産価値・売却価格
- 管理・修繕費の負担
- ライフプランとの整合性(引っ越し・住み続けるなど)


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