「持ち家vs賃貸」30年シミュレーション|6,500万円マンションで検証、購入者が知らない3つのコスト

ファイナンシャルプランナー

賃貸と持ち家のどちらにすべきかは単純な損得の問題ではありません。

6,500万円のマンション購入と賃貸を、現在の金利水準で30年シミュレーションしてみます。

修繕積立金の値上げ、高齢期の賃貸入居、金利上昇という3つの見落としがちなコストを、1級ファイナンシャル・プランニング技能士・マンション管理士が数字で解説します。

 

【この記事から分かること】
・6,500万円のマンションを買った場合と借りた場合の、30年後の純資産の差
・修繕積立金の将来の値上げを、長期修繕計画書のどこで確認できるか
・高齢期の賃貸入居の実態と、2025年に施行された改正法の内容
・金利タイプや物件の資産性によって、結論がどう変わるか

 

「持ち家vs賃貸」の比較で見落とされやすいもの

「持ち家と賃貸、どちらが得か」という比較記事は数多くあります。

ただ、その多くは「今の月々の支払額」や「30年間の支払総額」を比べるだけです。

将来の修繕積立金の値上げ、老後の住まい探し、金利上昇といった変動要素は、計算に入っていないことが少なくありません。

この記事では、これらの要素を組み込んで30年間のシミュレーションを行います。

なお、持ち家は一戸建てとマンションで性質が大きく異なることから、今回はマンションに絞って検証します。

 

見落としがちなコスト1:修繕積立金の値上げ

新築マンションの多くが段階増額積立方式を採用している

修繕積立金の積み立て方には2種類あります。

1つは、計画期間を通じて同じ額を積み立てる「均等積立方式」です。

もう1つは、当初の額を低く抑えて段階的に引き上げる「段階増額積立方式」です。

国土交通省の平成30年度マンション総合調査によると、マンション全体では均等積立方式が41.4%、段階増額積立方式が43.4%で、完成年次が新しいマンションほど段階増額積立方式の割合が高くなっています。 

 

段階増額積立方式では、値上げの幅が大きくなりがちです。

国土交通省の調査では、段階増額積立方式を採用したマンション249事例で、計画当初と比べて平均約3.6倍に上がる計画になっていました。 

 

30年間でいくら変わるか

当初の修繕積立金が月1万円のマンションで、10年ごとに引き上げられる場合を計算します。

 

期間 月額 10年間の合計
1〜10年目 10,000円 120万円
11〜20年目 22,000円 264万円
21〜30年目 35,000円 420万円
30年間の合計 ― 804万円

「月1万円×30年=360万円」と考えていると、444万円の差が生じる計算です。

さらに、積立金が足りない場合には、大規模修繕の際に一時金の徴収や借入れが行われることもあります。

 

値上げ計画は長期修繕計画書で確認

将来の値上げは、購入前に確認できます。長期修繕計画書の修繕積立金収入の推移を見れば、何年目にいくらへ上がる予定なのかがわかります。

収入欄に一時金や借入金も確認するとよいでしょう。これらが計上されている場合、積立金だけでは工事費をまかなえない計画になっているということです。

中古マンションであれば、重要事項調査報告書で積立金の残高と滞納状況もあわせて確認しておくと安心です。

 

2024年のガイドライン改定

修繕積立金については国も対策を進めており、2024年6月に修繕積立金のガイドラインが改定されました。

段階増額積立方式では、均等積立方式とした場合の月額を基準額として、初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内とする考え方が示されています。 

つまり、今後の新築マンションでは極端な値上げ計画は抑えられていく方向です。

一方で、既存のマンションには旧来型の計画が数多く残っています。

中古マンションを検討する場合は、特に注意が必要かもしれません。

 

見落としがちなコスト2:高齢期の賃貸入居

65歳以上の約3人に1人が入居を断られた経験あり

賃貸派の方からは、「老後は小さめの賃貸に住み替えればいい」という声をよく聞きます。

ただ、高齢になると部屋を借りにくくなるのが実情です。

 

高齢者の部屋探しを専門とするR65不動産の2025年の調査では、65歳を過ぎてから部屋探しをした人のうち、年齢を理由に不動産会社から断られた経験がある人は30.4%と、3人に1人にのぼりました。

貸主側には孤独死による事故物件化などへの不安があり、収入や十分な預貯金があっても物件を紹介してもらえないケースも少なくありません。

 

2025年10月に改正住宅セーフティネット法が施行

こうした状況を受けて、国も制度を整えています。

単身高齢者などが安心して賃貸住宅に入居できる環境を整えるため、改正住宅セーフティネット法が2025年10月1日に施行されました。

見守りなどのサポートが付いた「居住サポート住宅」の創設や、終身建物賃貸借の手続きの簡素化などが盛り込まれています。

 

ただし、制度が整ったからといって、希望する立地や広さの物件を自由に選べるとは限りません。

賃貸で老後を迎える場合は、家賃を払えるかだけでなく、借りられるかまで考えておく必要があると思います。

 

見落としがちなコスト3:金利上昇と資産価値

比べるべきは支払総額だけでなく30年後の純資産

持ち家は、支払ったお金の一部が不動産という資産として残ります。

賃貸は、家賃が資産として残らない代わりに、購入費用を運用に回せます。

そこで今回は、30年後に手元に残る純資産を比べます。

持ち家の純資産は、物件の売却手取りからローン残債を差し引き、運用資産を加えた額です。賃貸の純資産は、運用資産の額です。

 

シミュレーションの前提条件

項目 持ち家 賃貸
物件・家賃 6,500万円のマンション 月28.5万円(1.3倍)または32.9万円(1.5倍)
初期費用 諸費用455万円(物件価格の7%)を自己資金で支払い 敷金・礼金など家賃4か月分
ローン 6,500万円、35年、元利均等返済 ―
管理費・修繕積立金 管理費1.8万円(毎年1%上昇)、修繕積立金は上の表のとおり ―
その他 固定資産税 年16万円、火災・地震保険 年2万円 家賃は2年ごとの更新時に1%上昇、更新料は2年ごとに1か月分、保証料 年1万円
運用 両者の住居費を同じ予算とし、安い側が差額を年3%で運用 同左(賃貸側は諸費用相当額も運用)
30年後 売却費用4%を差し引き、ローン残債を返済 ―

※家賃は、持ち家の月々の住居費(変動金利1.25%でのローン返済額19.1万円+管理費1.8万円+修繕積立金1万円=21.9万円)の1.3倍と1.5倍としています。
※家賃の上昇は、最近の物価上昇を反映して更新ごとに1%としました。ただし、同じ部屋に住み続ける場合は建物の老朽化で相場家賃が下がる方向に働き、住み続けている入居者の家賃も上がりにくいのが実情です。実際にはこれより緩やかになる可能性があります。
※住宅ローン控除は計算に含めていません。

 

金利は次の3パターンで計算しました。

・変動金利1.25%のまま推移する場合
・変動金利が5年ごとに0.5%ずつ上がり、2.75%に達する場合(金利上昇シナリオ)
・フラット35の3.46%で全期間固定する場合

 

月々の住居費の推移

持ち家の住居費は、ローン返済、管理費、修繕積立金、税金、保険の合計です。

時点 持ち家(変動1.25%据え置き) 持ち家(変動・金利上昇) 持ち家(フラット35) 賃貸(1.3倍) 賃貸(1.5倍)
1年目 23.4万円 23.4万円 31.0万円 28.5万円 32.9万円
10年目 23.6万円 25.0万円 31.2万円 29.6万円 34.2万円
20年目 25.0万円 28.6万円 32.6万円 31.2万円 36.0万円
30年目 26.5万円 30.1万円 34.1万円 32.7万円 37.8万円

変動金利の場合、持ち家の住居費は修繕積立金の値上げによって少しずつ上がっていきます。

それでも、賃貸との差は30年間を通じて縮まりません。

金利上昇シナリオでは、30年目には持ち家と賃貸(1.3倍)の差が月2.6万円まで縮まります。

フラット35の場合は、30年間を通じて持ち家のほうが高くなります。

 

30年間の支払総額

ケース 30年間の支払総額
持ち家(変動1.25%据え置き) 9,432万円
持ち家(変動・金利上昇) 1億319万円
持ち家(フラット35) 1億2,167万円
賃貸(1.3倍) 1億1,609万円
賃貸(1.5倍) 1億3,390万円

※持ち家は諸費用を含みます。30年後にもローン残債が1,111万〜1,470万円残っています。

 

30年後の純資産

売却価格を新築時の40%(2,600万円)とした場合の結果です。

ケース 家賃1.3倍の場合 家賃1.5倍の場合
持ち家(変動1.25%据え置き) 5,379万円 8,180万円
持ち家(変動・金利上昇) 3,980万円 6,782万円
持ち家(フラット35) 1,711万円 3,425万円
賃貸 828万円(持ち家がフラット35の場合は1,916万円) 785万円

※賃貸の純資産は、比較する持ち家の住居費によって変わります。持ち家の住居費のほうが高い期間は、賃貸側がその差額を運用に回せるためです。

 

物件の資産性による違い

家賃1.3倍の条件で、売却価格の割合を変えて計算しました。

ケース 売却価格60%(3,900万円) 40%(2,600万円) 25%(1,625万円) 賃貸
変動1.25%据え置き 6,627万円 5,379万円 4,443万円 828万円
変動・金利上昇 5,228万円 3,980万円 3,044万円 828万円
フラット35 2,959万円 1,711万円 775万円 1,916万円

変動金利で購入した場合は、金利が上昇しても、資産価値が大きく下がっても、持ち家のほうが純資産は大きくなりました。

一方、フラット35で購入した場合は、家賃1.3倍の条件で売却価格が40%以下になると、賃貸のほうが有利になります。

売却価格25%では、その差は1,141万円です。

 

家賃がいくらなら賃貸と並ぶか

結論は家賃の水準によって大きく変わります。

30年後の純資産が持ち家と賃貸で並ぶ家賃(1年目の月額)を逆算しました。

ケース 売却価格40% 売却価格25%
変動1.25%据え置き 月21.5万円 月22.9万円
変動・金利上昇 月23.6万円 月25.1万円
フラット35 月28.8万円 月30.2万円

変動金利で購入する場合、同じ物件を月21万〜25万円程度より安く借りられるのであれば、賃貸のほうが有利になります。

検討中の物件の近くで、同じ程度の広さと仕様の賃貸物件の家賃を調べてみると、判断材料になります。

 

もう一つ見落とされやすいのが、30年後以降の住居費です。

持ち家はローンを完済すれば、管理費、修繕積立金、税金などで月8万円前後になります(今回の条件の場合)。

ただし、築40年、50年と経つにつれて修繕積立金はさらに上がる可能性があります。建替えや大規模修繕の議論が始まることもあります。

 

一方、賃貸の場合は、子どもの独立や退職を機に、より小さな部屋へ住み替えるのが現実的です。

仮に老後の家賃を月15万円に抑えたとしても、持ち家との差は月7万円前後になり、20年間で1,700万円近くになります。

さらに、この住み替えは多くの場合65歳前後になります。先に触れたとおり、高齢になると年齢を理由に入居を断られるケースがあります。

賃貸で老後を迎えるなら、「いくらの部屋に住み替えるか」と「その年齢で借りられるか」の両方を、早めに考えておくことが大切です。

 

まとめ

持ち家と賃貸のどちらにも正解はありません。

今回のシミュレーションから見えてきたのは、結果を大きく左右するのが次の3点だということです。

・長期修繕計画書の収入欄で、修繕積立金の値上げ計画を確認したか
・金利タイプを選ぶとき、金利上昇時の返済額まで試算したか
・30年後も価値が残りやすい立地や管理状態の物件を選んだか

 

賃貸を選ぶ場合は、高齢期の住まいをどう確保するか、家賃の上昇に備えた資金をどう準備するかを考えておくことが欠かせません。

マンションは、管理費と修繕積立金を含めた生涯の支出で見ると、賃貸との差は思ったほど大きくありません。

その一方で、分譲マンションは賃貸住宅よりも設備や仕様が充実していることが多いものです。

数字だけでなく、住み心地も含めて判断する必要があります。

 

※本記事のシミュレーションは、一定の前提条件に基づく試算です。実際の金利、家賃、物件価格、税制などによって結果は変わります。個別の判断にあたっては、専門家にご相談ください。

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