賃貸のトラブルで多いのが、退去の際の原状回復についてです。
賃貸物件に入居している人も、カーペットにジュースをこぼしてしまったり、壁にくぎを打ちつけて穴が開いてしまった等、住んでるときは気にしなかったものが、いざ退去するとなると気になるものです。
賃貸アパートの部屋内でタバコを当たり前のように吸ってるけど、これって退去のときに何か言われたりしないかな……?
退去する際に、こういう場合はどうなるんだろうかといろいろ疑問がわくと思います。
借主の原状回復義務
借主がどこまで負担すればいいのかは、専門用語で「原状回復義務」と呼ばれています。
借主の原状回復義務については、過去にトラブルが多いことから、国土交通省は原状回復義務についてのガイドラインを公表しています。
あくまでもガイドラインなので法律とは違う点に注意が必要ですが、ガイドラインは行政の指標となり、賃貸では参考にされるケースが多いです。
賃貸でガイドラインが引用されることがよくあるので、知っておいて損はありません。
床についてのガイドライン
賃貸人が負担するのが妥当であるもの
畳の裏返し、表替え。フローリングの色落ち、畳の変色。フローリングのワックスがけ。家具を設置した場合のカーペットのへこみやフローリングに残る痕。
床に限らず、いわゆる経年劣化といわれるものは賃貸人が負担することが妥当とされています。
賃借人が負担するかもしれないもの
こぼしたジュースをそのままにした場合は賃借人の負担になる。また、冷蔵庫の下のさびを放置したことによって汚損した場合も賃借人負担になる。
カーペットにジュースをこぼすことは日常的にあり得ますが、こぼしたジュースをそのままにしたら賃借人が負担することになります。
ジュースをカーペットにこぼしたらすぐ拭き、冷蔵庫のさびは放置せずに掃除が必要です。
賃借人が負担するもの
賃借人の不注意で起きたフローリングや畳の色落ち。わざと床に落書きした場合。引っ越し作業で生じたキズ。
故意(わざと)や過失(うっかり)が原因で、床にキズをつけた場合は通常の使用とはいえないとされました。
わざとキズをつけたらその人が負担するのは当然といえます。
壁や天井についてのガイドライン
賃貸人が負担するのが妥当であるもの
テレビや冷蔵庫を使用したことによって生じた裏の黒ずみ。画びょうの痕。通常使用によるクロスの変色。クーラーの穴。
賃借人が通常の使用、住み方をしていてもこれらは発生するので、賃貸人が負担するのが妥当とされています。
賃借人が負担する可能性があるもの
台所の油汚れ。結露を放置したことによるカビ、シミ。クーラーから水漏れして壁が腐った場合。
台所の油汚れは使用したら片づけて下さいということです。結露や水漏れは普通に生活していても起こりますが、こういったことが起きた場合はふき取って放置しないようにすることです。
賃借人が負担するのが妥当のもの
タバコのヤニ。くぎ、ねじの痕。設置されている照明コンセントを使用しないで天井に直接つけた照明器具。
タバコのヤニは通常の使用を超えるものになります。建物自体が禁煙の場合は用法違反にあたります。
画びょう程度なら大丈夫ですが、くぎやねじを使用して壁に穴をあけるケースは、通常の使用を超えるものになります。
建具(ふすま、柱)のガイドライン
賃貸人が負担するのが妥当とされるもの
地震によって破損したガラス。自然劣化によって亀裂したガラス。網戸の貼替。
賃貸人には部屋を使用収益させる義務があります。使用収益させる義務とは、部屋を使用収益できるように配慮しなければならないという義務をいいます。
地震は賃借人の責任ではありませんから、賃貸人の負担と考えられます。
古くなったガラスが亀裂することはよくあります。自然劣化によるものは賃借人の責任ではありません。
入居者確保の網戸貼替は物件の維持管理の問題とされるので、賃貸人の負担が妥当とされています。
賃借人が負担するもの
ペットを飼育したことによるキズ、汚損。わざと落書きした場合の汚損。
ペットを飼ってキズが付いた場合は、通常の使用を超えているとされます。理由はペットの飼育が必ずしも一般的とはいえないからです。
ペットを飼うことを許可している以上、キズは負担してくださいということです。また、ペット不可の物件でペットを飼った場合は、用法違反として契約解除の原因になります。
設備、その他のガイドライン
賃貸人が負担するのが妥当とされるもの
ハウスクリーニング。エアコンの内部洗浄。浴槽、風呂釜の取り換え。鍵の取り換え。設備の交換。
ハウスクリーニング、エアコンの洗浄は、次の入居者確保のために行うものですから、賃貸人が負担するのが妥当と考えられています。
鍵の取り換えについて、ガイドラインでは賃貸人負担が妥当としていますが、今も賃借人が負担するケースが多いです。
設備交換は経年劣化と考えられます。ただし、わざと設備を壊した場合は除きます。
賃借人の手入れが原因とされるもの
ガスコンロ置き場や換気扇の油汚れ。風呂、トイレ、洗面台といった水回りの水垢やカビ等。
油汚れやすすは賃借人によって生じるものなので、清掃するのも賃借人です。清掃を怠ったことによって汚損が生じた場合は善管注意義務違反に該当することが多いとされてます。
水回りの水垢やカビも居住中に掃除することが大事です。賃借人が清掃を怠ったことによって汚損が発生した場合も善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いです。
賃借人が負担する可能性が高いもの
日常の不適切な手入れや用法違反による設備の毀損。鍵の紛失。戸建住宅を賃貸した場合の庭の雑草。
戸建住宅を賃貸した場合の庭の雑草について、ガイドラインでは「草取りが適切に行われていない場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断される場合が多い」としています。
判例でも、庭の雑草について賃借人の善管注意義務が問われたものがあります。
戸建の雑草は賃貸している物件の管理会社に聞いてみるのが確実でよいと思います。
まとめ
ガイドラインで挙げられた例をそれぞれ見ていきましたが、常識的な部屋の使用をし、油汚れや結露などを放置しないことがトラブル回避には必要です。
通常の使用をしていれば、敷金が返ってこないということもないと思います。中には訴えられるまで返さない酷い業者もいます。
入居時にクリーニング費用の金額を明らかにして請求することが増えてますが、昔は原状回復の名のもとに敷金がリフォームに充てられ、敷金が返還されないことはよくありました。
ガイドラインにはあいまいなものも多いですが、ガイドラインを公表したことはかなり効果があったと思います。
少なくとも原状回復が借りた当時の状態に戻すことではないということが世間に広まりました。
参考 国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン