住宅ローンを借りると、不動産に抵当権といった権利を設定するのが普通です。
ローンの貸主は抵当権を設定しておくことで、借主が住宅ローンを返済しないときに、不動産を競売して現金を回収できます。
日本では、土地と建物は別個の不動産なので、土地と建物とで所有者が異なることがあります。
たとえば、競売によって土地と建物が別人の所有になった場合です。
法定地上権は、民法の規定による一定の要件を満たしたときに、建物を所有するための権利(地上権)が成立する制度です。
地上権と賃借権
地上権は物権、賃借権は債権になります。
物権は、物を直接、排他的に支配することができる権利です。排他的にとは誰に対しても自分のものと主張でき、所有者はその物を使用、収益、処分することができます。
一方で賃借権は債権なので、当事者間でのみ主張できます。
同一の物に物権と債権が競合するときは、成立の前後関係なく物権が優先されます。
法定地上権
法定地上権は、法律によって規定された地上権です。
民法の規定により、要件を満たした建物の所有者に、土地に地上権が設定されたとみなすのが法定地上権です。
たとえば、A銀行からローンを借りたBさんが土地に抵当権を設定したとします。
その後、Aが抵当権を実行して競売でCさんが土地を取得しました。
Cさんが建物に住むBさんに対して建物を撤去して出ていくように言ったとしたら、土地を失ったBさんは出ていくしかありません。
しかし、これだと落札されてない建物の方も利用できなくなってしまいBさんに酷なので、一定の要件を満たしたときに地上権が認められています。地上権が認められればBさんは引き続き建物に住むことができます。
1.AとBで抵当権設定契約(A抵当権者、B抵当権設定者)
2.Bの土地が競売
3.Cが土地を取得
4.法定地上権が成立したら引き続きBは住める
5.法定地上権が不成立ならBは住めない
また、法定地上権の地代は、当事者の協議によります。協議が定まらないときは、当事者の請求により裁判所が定めます。
法定地上権の期間は30年です。
法定地上権の要件
法定地上権の成立には、以下の要件を満たす必要があります。ちなみに法定地上権は特約で排除することはできないとされてます(判例)。
・抵当権設定時に建物が存在していた
・土地と建物が同一の所有者
・抵当権の実行によって土地と建物が別人の所有になった
抵当権設定時に建物が存在していた
まず、抵当権が設定されたときに建物が存在している必要があります。
たとえば、抵当権の設定時に建物がなく更地だった場合は、その後に建物を建てたとしても法定地上権は成立しません。抵当権者が承諾していたとしても同様です。
また、抵当権設定時に建物が存在していて、土地に抵当権を設定した場合は、その後に建物を再建したとしても法定地上権は成立するとされています(大判昭和10.8.10)。
一方、土地と建物に共同抵当権が設定された後、建物が再築された場合は、原則として法定地上権は成立しません。
しかし、新建物の所有者が土地の所有者と同一で、新建物が建築された時点で土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同一順位の共同抵当の設定を受けた場合は、新建物に法定地上権が成立するとしています。
共同抵当とは、同一の債権の担保のために数個の不動産に抵当権が設定されることです。
土地と建物の所有者が同一人
抵当権の設定時、土地と建物の所有が同じ人であることが必要です。
設定時に土地と建物の所有者が同じであれば、登記が別名義でも法定地上権は成立します。
抵当権設定時に土地と建物が同一の所有であれば、後で別人の所有になっても法定地上権は成立するとされています。
反対に抵当権の設定時に土地と建物の所有が別人であれば、後から同一の所有になっても法定地上権は成立しないことになります。
抵当権の実行によって土地と建物が別人の所有になった
抵当権の実行、つまり競売によって土地と建物が別人の所有になったときに法定地上権が成立します。
また、共有の場合にも法定地上権が成立した判例があります。
建物をAとBで共有し、土地をAが所有していた場合に、土地に抵当権が設定されて実行されたケースで法定地上権を認めています(最判昭46.12.21)。
一方で土地をAとBで共有し、建物をAが所有していて、Aの持ち分の土地に抵当権が設定されて実行されても法定地上権は成立しません。
今回のまとめ
法定地上権の成立要件
・抵当権の設定時に建物が存在していたこと
・土地と建物が同一の所有者だったこと
・抵当権の実行で土地と建物が別人の所有になったこと
民法第388条
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。