不動産の取引では、自殺や殺人事件が起きた物件について重要事項説明で告知することが義務付けられています。
確かに、これから契約しようと思った物件の前の入居者や所有者が死亡したと思うと、多くの人は二の足を踏むかもしれません。だからといって超高齢社会の日本で自然死まで告知すると円滑な取引を阻害する原因となるのではといった懸念もあります。
高齢者の単身世帯が多い日本では、今後、自然死や孤独死は避けて通れない問題です。
令和3年の10月に国土交通省が、宅建業による人の死の告知について、一般的な見地から妥当と思われる対応について整理し「宅地建物取引業による人の死の告知に関するガイドラインについて」として公表しています。
自宅で亡くなる高齢の死亡者は増加傾向
国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業による人の死の告知に関するガイドラインについて」によると、年間の死亡者数が増えており、中でも高齢者の孤独死が年々増えています。
・死亡者数の増加が続き、2030年以降は年間150万人程度と見込まれている。
・近年、病院での死亡割合が減少に転じ、自宅を含めた病院以外での死亡割合が増加傾向。
・自宅での死亡者数は、13.4万人(2000年)から18.8万人(2019年)へと約5万人増加した。
「国土交通省 宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」より
WHO(世界保健機関)では、65歳以上の人を高齢者とよんでおり、国の人口に占める高齢者の割合を高齢化率といっています。
今の65歳以上は高齢者という感じはしませんが、社会保険等でも65歳を保険事故として老齢年金が支払われます。
日本の高齢化率は、2015年に25%を突破し、2020年は28%となっています。つまり、日本の4人に1人以上は高齢者で、年金生活に入っていることになります。
また、高齢者の単身世帯は増加しているといわれ、東京都では孤独死の約7割が高齢者といわれます。
その反対に、今まで重要事項説明で告知が必要だった自殺は減少傾向にあり、かつて3万人といわれた自殺者は、今では2万人にまで減少しているようです。
高齢者が部屋を借りる際にネックとなっていたのが、賃貸人の8割が高齢者に部屋を貸すことに対してネガティブなイメージを持っていたことでした。
例:部屋での事故や死亡が不安、トラブル(認知症や近隣トラブル等)への不安
人の死の告知に関するガイドラインの内容
原則「宅建業者は、人の死に関する事案が取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない。」
自然死や孤独死の場合は、基本的に告知義務はありませんが、死亡から経過していて腐敗が進んでしまい、特殊清掃が行われた場合等は告知する必要があります。
殺人事件から20年以上が経過し、その間に所有者が何人か変わったのに告知義務ありとされた例もあります。
告げなくてもよい場合
① 賃貸借・売買取引
取引の対象不動産で発生した自然死、日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥(ごえん)など)
②賃貸借取引
取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死が発生し、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後
③賃貸借・売買取引
取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死
ただし、②③でも事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要があるとされています。
弁護士の先生に聞くと、迷ったら告知した方がいい、自分だったら告知してもらいたいか、といった回答が返ってきます。よく5年前なら裁判で勝てたとか聞きますが、それを過ぎたとしても言わなくてよいわけではありません。
おわりに
多くのガイドラインは業者向けという感じですが、今回のガイドラインは借主・買主にとっても告知についての基準を知ることができます。
自殺のあった部屋の上下および隣りの部屋を借りる人についても告知することが望ましいようですが、これも区分マンションとアパートでは受け取り方が違いますから、実務ではケースバイケースとなります。
とはいえ亡くなった人や遺族等の名誉、生活の平穏に十分配慮することも考えなければいけないので難しいところです。
参考
「国土交通省 宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」