最近になって相続税対策目的で賃貸経営を始める人が急速に増えているようです。
しかしながら、なかには相続税対策ばかりに目がいってしまって肝心の収支が散々な結果となっているケースも見られます。
事前に収支計画をシミュレーションしてみる
不動産の収益物件の販売図面には、必ずといっていいほど満室時の表面利回りが記載されています。
しかし、この表面利回りだけで投資判断してしまうと本来はどうしようもない物件がお宝物件になってしまいます。
賃貸経営では、簡単でもいいので収支計画を行ってみることが大切です。
賃貸経営の収支は、収入は目に見える形なので把握しやすいのですが、経費がややこしくて分かりにくいのではないかと思います。
同じ投資でも株式投資や債券、投資信託とは違った費用が出てきます。
株式投資や投資信託といったペーパーアセットいわれる金融商品の方が損益が分かりやすいので、リスクは大きいけど初心者向きかもしれませんね。
賃貸経営の損益項目
賃貸経営の損益項目は、賃貸経営がうまくいくかいかないかを決める原因となる項目です。
賃貸経営には、アパートの賃料収入といった毎月一定額の収入を得るためには、費用がかかります。
賃料や共益費、更新料等は入ってくるお金が分かりやすいので把握しやすいと思います。
収入項目
家賃収入と共益費・管理費は収入です。
共益費・管理費は、アパートやマンションの維持ですが、維持費用はかかったときに費用として処理するのが一般的なので、共益費・管理費を金銭で受け取ったときは収入扱いです。
礼金として受け取る金銭も返却しないので、貸主にとっては礼金も収入になります。
敷金は、借主に対する担保のために預かるものなので、解約時に返却します。後日、返却する敷金は収入ではなく負債となりす。
一般的な賃貸借契約では、2年毎に更新がきますが、更新時に発生する更新料も収入です。
更新料を受け取らない貸主もいますが、東京と横浜ではほとんどの場合に更新時に更新料が発生します。
部屋の一室を事務所や店舗として貸し出している場合は、借主から保証金を受け取ることがほとんどです。
保証金は、賃貸契約で「解約時に〇%を償却する」といった文言がほとんどの契約書に記載されています。
保証金の償却率が何%になるのかは、業種にもよりますが、最近では短期解約かどうかも償却率に影響することがあります。
保証金が12か月であれば、たった30%でもそれなりの金額になります。
貸主側から見れば、保証金は、後日返却する部分は負債、償却部分については収入となります。
賃貸の収入項目例
毎月の賃料
管理費・共益費
礼金・保証金の償却部分・敷金の運用益
更新料
駐車場収入
その他付随して発生する収入
経費項目
賃貸経営では、様々な経費が発生します。
収入を得るために発生した費用は、収入から控除する処理をします。
不動産の建物は、長期間使うものなので購入した時に全て費用処理するのではなく、使う期間に分けで費用として処理します。
長期間に分けて費用処理する手続きが減価償却費になります。
減価償却費とは
不動産は、一般的に金融機関から購入代金を借りて行うのですが、金融機関からの借入金には利息が付きます。
借入金の返済額は、元本は資産と負債の移動にすぎませんが、利息は経費として処理できます。
また、不動産は保有しているだけで固定資産税や都市計画税といった税金がかかります。
不動産経営にかかる固定資産税・都市計画税・事業税についても経費として処理できます。
アパートやマンションは、建物の状態を維持するために管理費がかかります。
また、不動産管理会社に管理を依頼していれば、管理会社への管理料がかかります。
入居者を募集するためには、広告料がかかります。広告料については、不動産管理会社が代わりに行ってくれますが費用がかかります。
管理費(共益費)、管理会社への管理料、入居者募集の広告料は経費です。
建物を長持ちさせるには、定期的な修繕が必要です。
建物の塗装塗り替えや設備交換といったものです。
修繕費には、資本的支出と収益的支出とがあります。
建物の寿命を延ばすような修繕は資本的支出として費用処理できません。資産に変わったとみなされからです。
資本的支出では、減価償却費の手続きを通して費用処理し、収益的支出では、発生時に費用処理します。
損害保険料は、建物が火災や毀損に備えて入ります。
損害保険料も経費として処理できます。
賃貸の経費項目例
減価償却費
支払利息
固定資産税・都市計画税・事業税
維持管理費・管理会社への管理料・広告料
修繕費(費用部分)
損害保険料
その他
減価償却費とは
減価償却費は、建物や設備といった長期間にわたって費用処理していう物にたいして行う費用処理です。
建物や設備は、時間の経過とともに価値が劣化していきます。
費用処理の期間については、法律で「法定耐用年数」として処理することが決まっています。
費用処理の計算方法は、定額法が原則ですが、
建物以外の資産については手続きによって定率法もできるとされています。
建物の法定耐用年数
鉄筋コンクリート 耐用年数47年 定額法0.022
重量鉄骨造 耐用年数34年 定額法0.030
軽量鉄骨造 耐用年数27年 定額法0.037
木造住宅 耐用年数22年 定額法0.046
木造のアパートを4,000万円で建築したとしたら、建築費用4,000万円を法定耐用年数の22年で分割して処理することになります。
4,000万円×0.046=184万円
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不動産投資はてこの作用がはたらく
不動産投資は、てこの作用が働くといわれています。レバレッジ効果ということもあります。
不動産投資では、ほとんどローンを利用します。
なので、頭金が不動産価格の1割でも、9割がローンを利用すれば購入できます。
例えば、不動産価格が1億円の場合であれば、頭金が1,000万円でも9,000万円を借りれれば購入できます。
このようにローンを利用すれば、自分で用意したお金が1,000万円なのに、1億円の不動産運用ができます。
他人のお金(他人資本)を利用して投資を行うことで、自己資金の何倍もの効果が期待できます。
他人資本を利用して自己資金の何倍もの効果を生じさせることが「レバレッジ(てこの作用)」です。

表面利回りと実質利回り
不動産投資の収益の目安に使われるのが販売図面などに表示されている利回り計算です。
利回り計算は、投資した金額に対して1年間でどれくらいの収益を得られるかの目安として使われ、どれくらいの期間で投資した金額が回収できるかの目安にもなります。
表面利回り
そして、利回り計算の代表的なものが「表面利回り」です。
一般的な表面利回りでは、満室時の年間家賃収入を購入価格で割ります。
例を挙げると、不動産価格が5000万円で、満室時の年間家賃収入が400万円だとすると、
400万円÷5000万円となり、0.08という答えが出ますので、この物件の表面利回りは0.08=8%ということになります。
表面利回りの計算では、不動産価格に諸費用を加算する場合もあります。
実質利回り(ネット利回り)
しかし、賃貸経営には最初にかかる費用以外にもランニングコストがかかります。
例えば、管理費用や固定資産税、いずれはかかる修繕費用も織り込んでおく必要もあります。その他、細かい雑費などもかかります。
これらランニングコストを考慮した利回りが、実質利回り(ネット利回り)といわれる利回りです。
1年間の収入から1年間の経費を控除した金額を購入代金で割ったものがネット利回りです。
例えば、年間の家賃収入が400万円で、年間の経費70万円、購入価格が5000万円だとすると、
(家賃収入400万円-経費70万円)÷5000万円=0.066
0.066=6.6%となります。
表面利回りだと400万÷5000万円で8%でしたが、実質利回りだと6.6%に下がりました。
