不動産の相続では、様々な専門家と関わることになります。
多くの人にとって相続で思い浮かべる専門家といえば税理士ではないでしょうか。
確かに資産がある人だと相続対策で税理士や弁護士に相談しているようですが、相続では税理士と弁護士以外の専門家と関わることもたくさんあります。
不動産の相続で係ることになる専門家
相続がきっかけで家族間が険悪になってしまったなんて話をよく耳にします。
相続税がかからない相続だからといって家族がもめないとは限りません。
実際、相続財産が5000万円以上ある相続よりも、相続財産が5000万円未満の方が相続でもめることが多いといわれてます。
相続財産の多寡にかかわらず、遺産をめぐって親族でもめることは多く、もめないための相続対策は必要です。
法定相続通りに相続する場合でも、争いを避けるために遺言を残しておくことは今は普通です。
ここからは、どの専門家に何を相談すればいいかについて触れていきます。
相続対策全般で頼りになるのが相続を専門としている弁護士かもしれません。しかし、皆さんもご存じの通り、この専門家は費用が高いことでも知られています。
事前なら遺言や相続対策で、相続後は訴訟でお世話になるかもしれません。
不動産を相続した場合は、登記の専門家である司法書士に依頼します。
不動産を登記しておけば、誰にでも不動産の所有を主張することができます。
追記:今までは相続登記は任意でしたが、令和6年から義務化されました。正当な理由がないにもかかわらず、3年以内の登記を怠ると10万円以下の過料という罰則もあります。
土地の測量や分筆が必要な場合は、土地家屋調査士が必要です。
納税対策に土地の整理をしたり、分筆しておく場合に土地家屋調査士に頼みます。
不動産を売却しようと思ったら、増築が未登記だったということは多いです。
不動産の売却や土地活用は、不動産会社が専門です。
同じ不動産でも変な分け方をしてしまい、不動産の価値を下げてしまったなんて例もあります。
税金がかかる場合は税理士がいます。
不動産は高額なものが多いので、税理士がかかわることも多いです。
行政書士、ファイナンシャルプランナーといった専門家が関わることもあります。
このように不動産相続では、多くの専門家と関わることになります。
不動産の相続では税金が優遇されている
不動産は相続で税金が優遇されてるので、現金を不動産に換えてる人は多いです。
自宅や事業用不動産を相続した場合に、多額の相続税が発生してしまうと相続後に自宅に住み続けることができなくなったり、事業を継続することが難しくなることがあります。
そうならないようにある制度が「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」といわれる制度です。
世間的には小規模宅地等の特例で知られています。
そもそも不動産の評価方法が現金と異なり、評価が現金よりも抑えられるので、結果として相続税が抑えられます。
相続税対策にアパートやマンションを購入するのは、賃貸にすることでさらに評価を下げることができ、そのうえ金融機関からの借入金を資産から控除できるからです。
ところが、消滅可能都市みたいなエリアのアパートを購入したものの、誰も借り手がつかず、損失を出して1年で売りに出した人もいます。
小規模宅地等の特例について
対象となるのは、個人が相続又は遺贈によって取得した財産です。
被相続人または被相続人と生計を一つにしていた親族の事業用宅地または居住用の宅地のうち、一定の面積までを相続税の課税価格(相続税の計算となってしまう価額)に算入すべき価額の計算上、通常価額から一定の割合が減額されます。
平成27年1月1日以後の相続の場合
相続の開始日が、平成27年1月1日以後の場合は、以下の上限範囲内で減額されます。
引用 国税庁HP 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
ときどき、相続の専門誌で自宅の8割の評価を下げられるといった内容の記事を見かけますが、これのことです。
適用の対象となる宅地
この特例の適用対象となるには、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要です。
詳細は、 国税庁HP 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
特例を受けるためには手続が必要
特例の適用を受けるためには、相続税の申告書にこの特例を受けようとすることを記載したうえで、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を提出します。
不動産を貸していると土地の評価が下がる(節税)
同じ不動産の相続であったとしても、自宅の不動産なのか、他人に貸している不動産なのかで不動産の評価が違います。
不動産の価値そのものが違うということではなく、同じ土地でも自分で使っているか他の人に貸しているかで評価の計算式が異なるからです。
建物評価は固定資産税評価額
建物の評価は、自宅の場合の相続は「固定資産税評価額」で評価されます。
自宅の場合は、固定資産税評価額そのものが相続税のもととなります。
ところが貸家の場合は少し違います。
建物をアパートや貸家として貸し出している場合は、評価額が下がります。
具体的には、借家権と賃貸割合をかけた数値分の評価が下がります。
借家権割合が30%であれば、賃貸として100%貸し出しているなら、0.3×1なので30%評価を下げることができるということです。
宅地は路線価か倍率方式
宅地の場合の相続税評価は、路線価か倍率方式で求めます。
自宅の場合は、小規模宅地を利用できます。
小規模宅地の限度額までは、大幅に評価を下げることが可能となります。
土地を自宅ではなくて貸地としている場合は「貸家建付地」になります。
貸家建付地では、(借地権割合×借家権割合×賃貸割合)という計算式を使うので入居率が高いアパートは引き下げになります。
貸し駐車場や使用貸借では、自用地としての評価ですので引き下げにはなりません。
郊外のアパート経営はリスクが多い
自用地よりも貸家建付地にした方が節税対策になるケースがあります。
しかし、アパート経営には様々なリスクがあります。
アパート経営では、入居や更新の手続きがあり、賃貸経営をしていくうえで建物の維持費がかかります。
また、空室対策も必要で空室が多い場合は、マイナスの収支になることもあります。
相続後は相続後で、アパートを誰が経営していくのかといった問題もあります。
不動産は分割できないので、アパート経営には現金とは異なるリスクがあることを認識しておくことが大事です。
借家権や底地と不動産の時価とは別です。
人に貸すと相続税の評価額が下がるといえ、建物や土地を貸すと簡単に返ってきません。
特に人に貸した土地(底地)は一般的に評価が低いです。
人口減少社会の到来
これからの日本は、今後40年で人口が4000万減少して2060年には9000万人を割り込むといわれています。
現在の日本の空き家率は、13%以上といわれていますが、都市によって空き家率に開きがあり、郊外だと空き家率が20%を超えている都市も多いです。
今後の空き家率は、40%に達すると言っている専門家もいます。
また、アパートの空き家率は神奈川などの都心部でも20%以上といわれており、郊外に目を向けると50%を超えることも珍しくありません。
実際、郊外のアパートでは、場所が悪いと新築であっても入居者がなかなか現れず、空室期間が長期化しやすいです。
若い世代が減少して人口が減少しているのにアパートの建設は増加しているというおかしな状況なので、家賃を下げてもなかなか入居が決まらないことも多いです。
こうなるとお金は減る一方なので、早いうちに損切りをして被害を最小限に抑えた方がいいケースも多いです。
おわりに
アパート経営がうまくいくかはキャッシュフロー次第といえます。
現金と将来利益をもたらすものを資産というならば、いくら節税対策でアパートを建てたとしても、キャッシュが出ていく一方のアパートでは資産とは呼べません。
返済義務はなくてもキャッシュが流出していく……もはや負債のようなものです。