新聞を読んでいると、ときどき「名目的は〇〇」とか「実質で考えると」といったような記事を見かけます。
お金の価値は経済状況で変化するという話を以前しましたが、こういった見かたは年金や資産運用を考える上で必要です。
お金の表面的な価値と実質的な価値の違いを区別しないと、「年金は10年で元が取れる」といった考えに至ってしまいます。
以前、年金は10年で元が取れる等と別記事で書きましたが、それはあくまでも名目的な数値に過ぎません。
名目的価値とは
お金は銀行や他人に貸し出せば普通は〇%の利子がつきます。
よく利率〇%といった表示を見ますが、これは一年で貸したお金の何%が貸出料として受け取れるかを表しています。
例えば利率1%で100万円を貸し出したとすれば、1年間の貸出料として100万円の1%である1万円が受け取れます。
このように、通常はお金を有効に活用することによって利子がつきますので、現在の1万円と1年後の1万円では利子分だけ価値が異なるということを意味しています。
経済学やGDPを評価するときに名目値と実質値が用いられますが、こういった考え方は投資やライフプランを立てるときも役立ちます。
名目値で見ると100万円が101万円に増えたように見えますが、この1年で物価が2%上がったとしたら、実質的には価値が損なわれたことになります。
物価の上昇が2%のような時は、運用でも2%を上回るようにしなければ価値を維持できません。
日本の過去の物価の変化
日本のバブル崩壊後は不況が長引いたので、バブル崩壊後を指して、失われた20年、30年といったりします。このままだと失われた40年になりそうです。
不況で物が売れなくなるデフレでは、供給が需要を上回るので物価が下がっていきます。
商品の値段が下がれば安く買えてラッキーと思いきや、商品が売れなければ会社の売り上げが落ちるので、連動するように給料も下がっていきます。
それどころか会社が不振でリストラ、最悪倒産してしまうことだってあります。
1980年代まではインフレでしたが、バブルの崩壊で1998年頃から物価がマイナス傾向になりました。
そのせいで現在30~50代の人はなかなか正社員になれず、苦労した人も多かったはずです。
私も何とか不動産会社に採用してもらいましたが、その会社はとんでもないブラック企業でした。
アポが取れないと一日中電話、席を立つことも許されませんでした。
今の時代では信じられないかもしれませんが、休日に出社させられるのは当たり前で、その分の割増賃金はおろかただ働きでした。
当時は日本人より安いという理由で外国人を雇用する(違法)会社があった時代です。
少々脱線しましたが、このバブルが崩壊した後に住宅ローンのかなりの数について債務不履行が起きました。
ある不動産には14番抵当までついて借入金が10億を超したのに、バブル崩壊後のその不動産の価格は5000万円にしかならなかったそうです。
1998年といったらサービサー法(債権回収を弁護士以外でもできるようにした法)ができた年です。
お金の実質価値
昔は銀行に定期として預けていると10%近い利息を受け取れる時代もあったそうです。
しかし、当時の経済環境も今では考えられないものだったため、実際はそれを上回る物価の上昇が起きていたようです。
私には個人年金を20年かけて現在は年金を受け取っている叔母がいるのですが、その叔母は保険料の約2倍の年金が受け取れたと私にも勧めてきます。
しかし、当時の日本の物価上昇率を考えると、実質的には目減りしていたようです。
経済や金融の世界では、名目的に増えたように見えても、実質的には減っているということはよくあります。
例えば、3%の利息を受け取れる一方で、インフレが4%、5年間続いたとします。
利息が3%なので1年後には103万円になっています。ところがインフレが4%ということは4%の価値が下がることを意味します。
現在の価値に換算するとこの103万円は、99万円しか価値がありません。
5年後にせっかく116万円になったお金も現在を基準にして実質で考えると95.5万円の価値しかないことになります。
つまり、名目的な価値で考えると116万円となるお金も実質で考えると95.5万円になるという資産の目減り現象が起きています。
このようにお金は実質的な価値で見ることが大切です。
おわりに
お金の価値は発行体もしっかりしているか等によって影響します。
ギリシャの債券は、リスクが高く信頼性が高いとはいえないため、現在では高利回りとなっています。
赤穂藩がお取りつぶしになったときは、赤穂藩の取りつぶしによって藩が発行しているお金は価値がなくなるので、取り付け騒ぎが起きました(現在、忠臣蔵を読んでます)。
また、資産運用を考えるときは、経済環境を抜きにして考えることはできません。いくら名目的には増えても実質的に増えていなければそれは資産の目減りだからです。
デフレと言われる時代は、お金を持っているだけでお金の価値が増加している時代でした。そのため資産運用がそれほど必要ではありませんでした。
しかし、これからの時代はそうはいきません。経済のグローバル化、新興国の台頭、少子高齢化等によってこれから先は運用の成績によって格差がますます拡大することが予想されています。
少なくとも物価の上昇分は運用によってカバーしないとお金の価値が消えていきます。
公的年金は物価の影響を受けるといわれるので、インフレがあっても安心と思いきや、実際はそう簡単には増えません。
年金について、男子手取り賃金も考慮されますし、マクロ経済スライドによっても年金の増額が抑えられるからです。