マンションには、ライフスタイルが異なる多様な人が多く住んでいます。
いくら購入したからといえ、各自がそれぞれ勝手な行動をとると、マンションの運営に支障をきたすことになりかねません。
区分所有マンションでは、所有者が当然に管理組合の構成員となり、集会(通常総会・臨時総会)に参加して決議や規約の設定等を行います。
区分所有者から部屋を借りている人も、集会の決議や規約に拘束されることになります。
たくさんの人がいる区分所有マンションでは、全てのことが平等と限らないことがあります。
例えば、1階の住人だけに認められる専用庭や、特定の所有者だけが使用できる駐車場といったものです。
こういった専用使用権に規約で制限できるかどうか争われたのが、駐車場専用使用権確認請求事件(最判平成10年10月30)です。
こういった例があったからといって毎回同じ結果になるとは限りませんが、裁判例は同じような事件の判断材料になります。
事件の概要
不動産分譲業者は、マンション分譲する際に敷地の一部に駐車場の専用使用権を設定し、先着順で住戸とは別に分譲しました。
分譲業者に代金(30~40万円)を支払って駐車場の専用使用権を分譲されたXは、管理組合Yに駐車場使用料(月額500~700円)を支払って駐車場を使用していました。
しかし、当該マンションでは駐車場の数に限りがあり、他の区分所有者から駐車場不足と使用料の不均衡に対して不満が出ていました。
そこでYは駐車場の検討を行い、総会の決議で規約を改正し、駐車場使用料を増額することが決議されました。
Yは、増額した駐車場使用料をXに求めましたが、Xはこれを拒否したため、Yは駐車場使用契約を解除しました。
この結果、XはYに対して、駐車場使用料の増額する規約の無効や専用使用権を有することの確認を求めて訴えました。
結果について
まず、マンションの管理規約を設定、変更または廃止するときは、集会で区分所有者および議決権の各3/4以上の多数による決議(特別決議)が必要とされています。
マンションはたくさんの人が住むものなので、反対する人も賛成する人もいるのは当然ですが、多数決によって運営されています。集会の決議や規約でルールが決められている以上、反対の人も決議や規約に拘束されます。
また、区分所有法では、規約の設定の変更や廃止が特定の区分所有者の権利に特別な影響を及ぼすときは、承諾を得なければならないとされています。
区分所有法第31条
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第2項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
特別な影響とは、①規約の設定の必要性や合理性、②その区分所有者が被る不利益を比較し、その不利益が我慢の限界を超えることをいいます。
つまり①と②を踏まえて判断され、一部の区分所有者の不利益が受忍の限界を超えるような場合は、その区分所有者の承諾がなければ認められないということです。
このときの裁判では、駐車場の専用使用料の増額に関する規約の変更は、増額の必要性・合理性が認められ、増額された金額が社会通念上相当と認められる場合は特別な影響を及ぼすものではないとされました。
つまり、専用使用権者の承諾を得ることなく、規約又は集会の決議によって使用料を増額することができるということです。
また、区分所有者の合意とは別に適正な駐車場使用料等があるとするならば、適正価格の評価は、元来、共用部分の維持・管理計画から算出されるべきものであり、近隣の駐車料金等との比較は副次的であるべきである。
花房博文「別冊ジュリスト192 不動産取引判例百選(第3版)195頁26行」
ただ、専用使用権者が訴訟で使用料増額の効力を争っているにもかかわらず、専用使用料の支払いに応じないことを理由に駐車場使用契約を解除したため、駐車場使用契約の解除については効力を生じないとされました。
参考文献
稻本洋之助・鎌野邦樹「コンメンタール マンション区分所有法第3版」
花房博文「別冊ジュリスト192 不動産取引判例百選(第3版)194-195頁」
おわりに
管理組合は、区分所有法に定められた特別決議により、専用使用権者の承諾を得ることなく駐車場の使用料を増額することができます。これは、一般的な駐車場契約でも同じです。
特別の影響を及ぼすべきときというのは、規約の変更をめぐる裁判では時々出てきます。
ペットの飼育を禁止す規約を新たに定めるときにも出てきました。
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