不動産の取引では、契約前に重要な事項について説明が行われ、その後に契約の締結が行われます。
契約書には、売主と買主(又は貸主と借主)といった当事者間での取り決めが条文形式で記載されています。
契約書に契約の内容を記載して、当事者が納得して記名押印するのですが、契約書の記載内容が一方にばかり都合よかったり、常識的におかしなことが書いてあることもあります。
普通の人は法律に触れる機会なんてそうありませんから、そんなものかと思って捺印、押印してしまうこともあるかもしれませんし、意味が分からず何となく契約してしまうこともありえます。
契約は当事者が納得すれば文句はなさそうですが、必ずしもそうとばかりはいえず、当事者の意思とは裏腹に法律が優先されることもあります。
法律には原則と例外がある
法律がややこしいといわれる理由の一つに、法律には原則と例外があるということが挙げられます。
法律の条文に書いてあっても、当事者間で法律とは別の取り決めができるということがありますが、これが例外にあたります。
2020年に民法が改正されて、瑕疵担保責任から契約不適合責任になりました。
売買契約で品質に関して契約不適合がある場合、契約不適合を知った時から1年以内に通知する必要があります。
民法566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
この場合でも売主が宅地建物取引業者でなければ、契約不適合責任について法律とは異なる特約をすることができます。法律が原則で、特約が例外ということです。
例えば、売買契約で引き渡しの日から6か月を経過した時に契約不適合責任を免れるといった取り決めも可能ですし、契約不適合責任を負わないとする取り決めも可能となります。
ただ、契約不適合責任を負わない旨の特約をしても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることはできません(民法572条)。
このように原則と例外があるので、取引のトラブルを避けるためにも契約書を取り交わす必要があります。
法律には強行規定と任意規定とがある
法律上は口頭であっても契約は成立するとされており、当事者間で納得すればそちらが優先されます。
契約の成立には書面が必須ではないのですが、実際の取引ではトラブルが起こりえるので、契約書を作って証拠としています。
何より宅地建物取引業という法律では、書面の交付が義務付けられています(37条書面)。
法律には原則と例外がありますが、当事者が合意すればそちらが優先されるのが普通です。
しかし、中には当事者の意思が合致したとしても法律が優先されることがあります。
これが強行規定といわれるものです。一方、特約で定めれば原則を適用しないことができるのが任意規定です。
強行規定に反する特約は無効または引き上げ
原則とは異なる特約を定めても、強行規定に反するものは無効となったり、法律のルールに修正されたりします。
例えば、宅地建物取引業者のルールを定めている宅地建物取引業法では、自ら売主となって不動産の売買契約をする場合の契約不適合責任に関して、契約不適合を通知する期間を引き渡し日から2年以上となる特約をのぞいて、民法に規定するよりも買主に不利となる特約をしてはならないとしています。
契約不適合の通知期間を引き渡しから2年以上とするのは認められますが、引き渡しから1年だったり、免責とするといった特約は、民法の規定よりも買主に不利なので無効になります。
みなさんに身近な法律としては、労働基準法も強行規定になります。労働基準法は、労働者の最低限度の法律を定めたものなので、この法律を下回る会社のやり方は無効または労働基準法にまで引き上げられます。
例えば就業規則で残業代は支払わないと定めても、強行規定なので規則は労働基準法にまで引き上げられ、法定労働時間を超えた分には割増賃金が支払われるのが法律上の扱いです。
このように強行規定は強い効力を持つのですが、必ずしも法律に強行規定かそうでないかの明文がないこともあります。そういった場合には、判例や学説で強行法規と解釈されることもあります。
おわりに
不動産の取引では、ひな型となる契約書の条文を変更せず、特約を用いて契約を調整するのが一般的に行われてます。
テレビのニュースを見て契約書を確認したら、言われたことと条文が違ったため、不動産会社に文句を言いにいったら、実は特約にちゃんと書いてあったということはあります。
うやむやにならずに済ますためにも、契約の場で不明な点をその都度担当者に質問することは大事です。