不動産の取引では、自殺や殺人事件が起きた物件について重要事項説明で告知することが義務付けられています。
確かに、これから契約しようと思った物件の前の入居者や所有者が死亡したと思うと、多くの人は二の足を踏むかもしれません。だからといって超高齢社会の日本で自然死まで告知すると円滑な取引を阻害する原因となるのではといった懸念もあります。
高齢者の単身世帯が多い日本では、今後、自然死や孤独死は避けて通れない問題です。
令和3年(2021年)の10月に国土交通省が、宅建業による人の死の告知について、一般的な見地から妥当と思われる対応について整理し「宅地建物取引業による人の死の告知に関するガイドラインについて」として公表しています。
この記事から分かること
- 「人の死の告知に関するガイドライン」が作られた背景
- 自然死・孤独死・事件死で、告知義務の扱いがどう異なるか
- 告げなくてよいとされる3つのパターン
- 賃貸借取引における「概ね3年」という告知不要の目安
- 高齢者の入居を取り巻く現状と、ガイドラインが目指した狙い
自宅で亡くなる高齢の死亡者は増加傾向

国土交通省が令和3年10月に公表した「宅地建物取引業による人の死の告知に関するガイドラインについて」によると、年間の死亡者数が増えており、中でも高齢者の孤独死が年々増えています。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によれば、日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、令和6年(2024年)10月時点で29.3%に達しています。
今後も上昇を続け、令和19年(2037年)には33.3%(国民の3人に1人が高齢者)、令和52年(2070年)には38.7%(2.6人に1人が高齢者)に達すると見込まれています。
高齢化の進行に伴い、高齢者の単身世帯も増加傾向にあり、自宅で誰にも看取られずに亡くなる、いわゆる「孤独死」も社会的な課題として認識されています。
一方で、これまで重要事項説明での告知が必要とされてきた自殺については、減少傾向にあります。
かつて年間3万人台で推移していた自殺者数(ピークは2003年の約3万4千人)は、近年は2万人台前半まで減少しています。
こうした状況を背景に、高齢者が賃貸物件を借りる際にネックとなっていたのが、多くの賃貸人が高齢者への賃貸に慎重な姿勢を持っているという実情でした(入居中の事故・死亡への不安、認知症や近隣トラブルへの懸念などが理由として挙げられています)。
ガイドラインは、こうした賃貸人の不安を、明確な判断基準を示すことで軽減する狙いも持っています。
人の死の告知に関するガイドラインの内容

ガイドラインの原則は、次の通りです。
宅建業者は、人の死に関する事案が取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない。
自然死や孤独死そのものは、原則として告知義務の対象になりません。
ただし、死亡から発見まで時間が経過し、腐敗が進行して特殊清掃が必要になった場合等は、告知が必要になります。
また、事件性・社会的な影響が大きい事案については、たとえ長期間が経過していても告知が必要とされたケースもあります(殺人事件から20年以上が経過し、その間に所有者が複数回変わっていても告知義務ありとされた事例が知られています)。
告げなくてもよいとされる3つのパターン
| パターン | 対象取引 | 内容 |
| ① | 賃貸借・売買取引 | 対象不動産で発生した自然死、日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など) |
| ② | 賃貸借取引のみ | 対象不動産・日常的に使用する集合住宅の共用部分で発生した①以外の死、または特殊清掃等が行われた①の死について、事案発生(特殊清掃等の場合は発覚)からおおむね3年が経過した後 |
| ③ | 賃貸借・売買取引 | 対象不動産に隣接する住戸、日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した、自然死・不慮の死以外の死や特殊清掃等が行われた死 |
ただし、②③に該当する場合であっても、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に大きい事案については、告知が必要とされています。
「概ね3年」というのは、あくまで賃貸借取引における一つの目安です。売買取引には、こうした時間の経過による告知不要の基準は設けられていない点に注意が必要です。
弁護士に聞くと、迷ったら告知した方がいい、自分だったら告知してもらいたいか、といった回答が返ってきます。よく5年前なら裁判で勝てたとか聞きますが、それを過ぎたとしても言わなくてよいわけではありません。
おわりに
これまで多くのガイドラインは、宅建業者側の実務指針という性格が強いものでしたが、このガイドラインは、借主・買主にとっても「どこまでが告知の対象になるか」の目安を知ることができる内容になっています。
自殺があった部屋そのものだけでなく、その上下や隣の部屋を借りる場合についても、告知が望ましいとされるケースがあります。
ただし、区分マンションとアパートでは実際の受け止め方が異なることも多く、実務上はケースバイケースの判断にならざるを得ません。
亡くなった方やご遺族の名誉、生活の平穏に十分配慮しながら対応することが求められる、難しい分野といえます。
まとめ
- 自然死・日常生活の中での不慮の死は、原則として告知義務の対象にならない
- 賃貸借取引では、①以外の死でも「概ね3年」経過後は告知不要とされる場合がある(売買にはこの基準はない)
- 隣接住戸や、日常使用しない共用部分での死は、原則告知不要とされる
- 事件性・周知性・社会的影響が特に大きい事案は、時間の経過にかかわらず告知が必要とされる
- 日本の高齢化率は2024年10月時点で29.3%まで上昇しており、今後も孤独死等への対応は重要な課題であり続ける
参考
「国土交通省 宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」

