アパートやマンションといった部屋の賃借人は、部屋を借りる対価として家賃を納付することになります。
不動産の賃貸にあたって賃貸人と賃借人とで様々な取り決めをしたものが契約書です。
その他に賃借人には民法上、原状回復義務と善管注意義務といわれる義務を負います。
不動産賃貸に関するするトラブルは多いですが、特に原状回復義務をめぐるトラブルが多いです。
原状回復義務とは
借主は、借りた物を返還するときは、原状に戻してこれに付属させた物を収去する権利を有し、義務を負う、とされてます。
原状回復義務は、契約の終了して借りたものを返すときは元に戻して返す、といった義務を指します。
原状回復について、建物の劣化に対して借主がどこまで負担すればいいかで争いが起こります。
通常は借主が退去した後、本来であれば敷金から原状回復費用を控除した金額が返還されますが、返還された敷金の金額を知って納得いかないと争いに発展したりします。
15年以上前になりますが、当時は敷金を全額自分のために使い込む賃貸人もいました。結局、訴えられてましたけど。
そもそも敷金は賃料を滞納した場合等の担保として借主から預かるものですが、大家さんでも敷金がどういうものか分かってない人は多いです。
借りる側も、原状回復をどこまで負担するかを知らないと損する可能性があります。
善管注意義務
善管注意義務とは、債務者の職業や社会的・経済的地位に応じて、取引上一般に要求される程度の注意をいいます。
目的物を借りている間は、返還するまで自分のものよりも注意して目的物を保存する義務を負います、ということです。要は自分のものよりも注意して扱ってくださいということです。
とはいえ、そんなにかしこまる必要はなく、常識的な範囲で使っていればいいと思います。
ただ、部屋を借りている間に設備が壊れた場合等は管理会社や大家さんには連絡しておくことが必要です。
また、賃借人がわざと建物の設備、備品を壊したときは、賃借人の責任となります。
原状回復義務にはガイドラインが公表されている
原状回復をめぐって裁判に発展するケースが多いことを憂慮して、国土交通省で原状回復義務のガイドラインが公表されています。
それだけ原状回復を原因とするトラブルが多いということです。
国土交通省が発表している原状回復のガイドラインでは、「年月による建物の劣化」「通常の使用によって生じる劣化」「賃借人の故意、重過失といった賃借人に起因する損壊」と物件の状態について分けて考えてます。
国土交通省の発表によれば、「原状回復とは、賃借人が住んで使用することによって生じる建物の劣化、価値の減少のうちにおいて、賃借人の故意、過失、善良なる管理者による注意義務違反といった通常の使用を超えた損壊、毀損に対して復旧すること」としています。
このことから、ただの建物の経年劣化や通常使用による劣化では、原状回復義務は生じないということになります。
これだと賃貸人と賃借人の原状回復をめぐるトラブルでは、なかなか賃貸人は裁判で勝てないことになります。
状況によって劣化なのか損壊なのか判断が難しいこともあります。
最近の賃貸借契約では、契約時にどこまでが原状回復なのかを説明し、明らかな賃借人の損壊によるもの以外は賃貸人が負担することも増えてます。
賃貸人にとっては、原状回復以上に空室リスクや家賃滞納リスクの方が大きな問題ですし、裁判が長引いてもメリットは少ないです。
退去の時よりも居住中に起きた出来事で賃借人から相談されることも多いです。
「カーペットにジュースをこぼしてしまった」
「部屋でタバコを吸ってるけど、退去の時何か言われるんだろうか」
「壁に画鋲を指してるけど、これってダメなのかなあ……。」
「鍵を自分で新調したものに変えてるけど大丈夫だろうか(だめ)」
床についての原状回復ガイドライン
以下の画像は、国土交通省の原状回復ガイドラインから転載したものになります。
賃貸人が負担するのが妥当であるもの
畳の裏返し、表替え、フローリングの色落ち、畳の変色は通常の使用で劣化していくものなので、賃貸人の負担が妥当とされてます。
フローリングのワックスがけ。
家具を設置した場合のカーペットのへこみやフローリングに残る痕は普通に使用しててもつくので大丈夫です。
賃借人が負担する可能性があるもの
カーペットにジュースをこぼすこと自体は仕方ありませんが、こぼしたジュースをそのままにした場合は賃借人の負担になります。
また、冷蔵庫の下のさびを放置したことによって汚損した場合も賃借人負担になります。
ジュースをカーペットにこぼしたらすぐ拭いて、冷蔵庫のさびは掃除しておくといいです。普段から掃除してる人なら大丈夫そうですね。
賃借人が負担するもの
賃借人の不注意で起きたフローリングや畳の色落ち。
わざと床に落書きした場合。
引っ越し作業で生じたキズ。
これらは経年劣化でも日常生活で起きるキズでもないので賃借人負担になります。
壁、天井の原状回復ガイドライン
賃貸人が負担
テレビや冷蔵庫を使用したことによって生じた裏の黒ずみ。
画びょうの痕、通常使用によるクロスの変色。クーラーの穴。
賃借人が負担する可能性があるもの
台所の油汚れ。結露を放置したことによるカビ、シミ。クーラーから水漏れして壁が腐った場合。
結露や水漏れがある場合は、結露や水漏れをふき取って放置しないようにします。
結露以外は常識的ですよね。
賃借人が負担
タバコのヤニ。くぎ、ねじの痕。設置されている照明コンセントを使用しないで天井に直接つけた照明器具。
タバコのヤニは、通常の使用を超えるものになります。建物自体が禁煙の場合は用法違反にあたります。
くぎやねじを使用して壁に穴をあけるケースは、通常の使用を超えるものになります。
画びょうは大丈夫ですが、クギやネジはだめです。これは常識的に判断できますね。
建具(ふすま、柱)の原状回復ガイドライン
賃貸人が負担するもの
地震によって破損したガラス。自然劣化によって亀裂したガラス。網戸の貼替。
ガラスが割れた時に慌てるかもしれませんが、古くなったガラスが亀裂することはよくあります。
損害保険でカバーできることもあるので、ガラスが割れたら速やかに管理会社に知らせましょう。
賃借人が負担するもの
ペットを飼育したことによるキズや汚損。わざと落書きした場合など
ペットは基本的には通常の使用を超えた使用にあたります。ペットを飼ってると原状回復費用も高くなるのが普通です。
設備、その他の原状回復ガイドライン
賃貸人が負担
ハウスクリーニング。エアコンの内部洗浄。浴槽、風呂釜の取り換え。鍵の取り換え。設備の交換。
賃借人が負担
ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ。鍵の紛失。
善管注意義務違反に当たるのが、フロ・トイレ・洗面台の水垢やカビ。戸建の雑草。
おわりに
ガイドラインで挙げられた例をそれぞれ見ていった結果、常識的な部屋の使用をして、汚れを放置しなければ、原状回復費用を恐れることはないとお分かりいただけたと思います。
あとは、クリーニング費用の範囲をどこまで負担するかといった特約の問題だと思います。限度はありますが契約自由の原則により、通常損耗を賃借人に負わせることも可能だからです。