平成30年4月から「建物状況調査(インスペクション)」に関して法律が改正されて実施されました。
建物状況調査よりも、「インスペクション」という言葉の方が知られているみたいなので、ここからはインスペクションで通します。
インスペクションについては、平成28年の宅地建物取引業(不動産の取引に関する法律)の改正で盛り込まれたのですが、実際の実施は平成30年の4月からとなります。
建物状況調査(インスペクション)とは
インスペクションというのは、中古住宅を対象にした検査のことをいい、調査に関する一定の講習を修了した建築士によって建物の調査が行われます。
中古の住宅だと不具合が心配ですが、建築士といった専門家が検査をすることで、住宅の不具合を一定程度知ることができます。
「インスペクションでは、建物のどこを検査するのでしょう?」
「「構造耐力上の主要部分」と「雨水の侵入を防止する部分」が対象になります。」
「では、どんな検査が行われるのでしょう?」
「インスペクションでは、レーザーで建物の傾きを見たり、建物の箇所を目視で検査したりする非破壊検査で行います。」
あくまでも非破壊検査なのでどうしても限界はありますが、全くの不安のまま購入するよりはましです。
より建物の状態を知るには、外壁を壊して壁の中を見たり、床をはがしたりすることが必要ですが、このように建物を壊して検査を行うことは行いません。それに破壊検査だと費用がかかります。
そのかわり、検査が一定の基準に適合すれば、瑕疵保険の対象になります。
瑕疵保険を利用した場合に発行される既存住宅瑕疵補償保険付保証明書は、住宅ローン減税の書類として利用できます。
住宅ローン減税とは
住宅ローン減税を簡単に言うと、年末の住宅ローン残高の1%が年間40万円を上限に所得税から還付される制度(かかる所得税と住民税が対象)です。
一戸建て等は築20年まで、鉄筋コンクリート等(マンション)は築25年までが対象となります。
つまり、築年月が期限内でなければ、住宅ローン減税の対象外ということです。
しかし、「既存住宅瑕疵保証保険付保証明書」があれば、築年数が古かったとしても住宅ローン減税の対象になります。
もし、検査で不具合箇所が見つかった(過半数は不具合が見つかる)場合は、不具合箇所を直して再検査を行い、適合すれば瑕疵保険の対象となります。
(2024年度追記)
2024年1月以降に建築確認を受けた新築は、省エネ基準を満たさないと住宅ローン減税を受けられなくなりました。
年末のローン残高の1%だったのが0.7%となり、新築は13年、中古は10年の期間にわたって税金が控除されます。
<令和6年度のポイント>
・借入限度額について、子育て世帯・若者夫婦世帯が令和6年に入居する場合には、令和4・5年入居の場合の水準(認定住宅:5,000万円、ZEH水準省エネ住宅:4,500万円、省エネ基準適合住宅:4,000万円)を維持。
・新築住宅の床面積要件を40㎡以上に緩和する措置(合計所得金額1,000万円以下の年分に限る。)について、建築確認の期限を令和6年12月31日(改正前:令和5年12月31日)に延長する。
そもそもどうして建物状況調査(インスペクション)が実施されることになったのか
今までの日本の不動産市場では、ほとんどが新築物件の取引でした。
国土交通省の住生活基本計画によると、中古住宅の取引は不動産の取引全体の6分の1と低い割合で推移しており、欧米と比べてかなり低いといわれてました。
既に超高齢社会を迎え、これからますます人口が減少していく日本では家余りが加速していくことが懸念されています。
また、一戸建ての建物は20数年経つと担保の評価がほとんど出ませんので、これも問題視されていました。
これらの理由から、国としては中古市場を活性化させたいようです。
そして、中古市場を活性化させるための制度がインスペクションというわけです。
確かに、買い手の「瑕疵(隠れた不具合)に対する不安」は、中古住宅の取引が少ない理由に挙げられてます。
一番高いといわれる不動産で、品質が不明なのは大きなリスクです。
不動産会社からのインスペクションのあっせんがあります
平成30年4月からインスペクションの導入で、不動産会社から3つのタイミングでインスペクションのあっせんが行われます。
それぞれのタイミングとは、媒介契約時、重要事項説明時、売買契約締結時の3回です。
媒介契約
まず、売主であれば売却を依頼する際、買主であれば購入を希望する際に、売主・買主それぞれにインスペクションの概要が不動産会社から説明されます。
お客様がインスペクションを希望した場合は、インスペクション業者を紹介し利用のための手伝いを行います。
ちなみに費用の負担については決まってないので、実施したほうが費用を負担することになります。
重要事項説明
不動産の取引では、購入する前に重要な事項について説明を受けます。
これが重要事項説明といわれる説明ですが、インスペクションを実施した場合は、この重要事項説明のタイミングで買主に向けてインスペクションの結果が説明されます。
売買契約締結時
インスペクションを実施した場合は、売買契約締結時にインスペクションの結果を書面で交付されます。
雨漏りがあった場合は、「本物件は雨漏りの跡が存することを確認……」みたいに記載されます。
売主にとってのメリット
売主様にとってのインスペクション実施のメリットは、引き渡し後に起こるトラブルを軽減させることができる点です。
また、事前にインスペクションを実施しておくことで他の中古住宅との差別化ができ、取引の安心につながります。
インスペクション実施済み物件、住宅ローン減税対象物件として、他の物件よりも早期売却も可能です。
買主にとってのメリット
買主様のインスペクション実施物件のメリットは、目視とはいえ事前に検査するので、建物の不具合について把握できる安心があります。
建物の状況が分かれば、リフォームの費用があらかじめ把握しやすくなります。
かし保証を利用して付保証明書があれば、築年数が経過していても税制の優遇制度が利用できます。
インスペクションの問題点
中古市場の活性化のために有効な手となりそうなインスペクションですが、インスペクションにもいくつかの問題点があります。
まず、インスペクションを実施して不具合が出た場合です。
建物が古くなれば不具合が出る可能性は高くなりますが、インスペクションを実施した場合に半数以上が何らかの不具合が出るといわれています。
不具合が出た場合は、当然ですが建物の評価にも影響は出ます。
インスペクションを実施するには、数万円~十数万円の費用がかかります。
この費用負担について売主と買主のどちらが負担するかの問題があります。
インスペクションでは、どちらが負担するかは決められてませんので、現状はインスペクションを実施する人が負担することが多いです。
円満な取引のために売主と買主の両者で折半というケースもあります。
売主がインスペクションを拒否する理由として、検査の結果修理が必要と分かった時のショックを思って拒否する人もいます。
終わり
今までは、瑕疵については個人売買なら1か月~3か月の瑕疵担保責任が一般的でしたが、不透明な部分が多く、買う側がなかなか購入に踏み込めないこともありました。
日本では、これから本格的に実施されますが、中古市場が発達している欧米では当たり前にインスペクションが実施されています。
まだまだ、始まったばかりの制度なので制度自体に不具合が出てくるかもしれませんが、中古市場が活性化すれば、定期的なリフォームが資産維持につながります。