賃貸物件を探していて、「良さそうな物件が見つかったので問い合わせたら、すでに申し込みが入っていた」という経験はないでしょうか。
状況によっては、これがおとり広告の可能性があります。
一方で、人気エリアの物件では本当に申し込みが入って埋まるケースも珍しくありません。
一般の方が「これはおとり広告なのか、それとも本当に埋まったのか」を見抜くのは、実はなかなか難しいのです。
この記事では、おとり広告の仕組み・法的な規制・構造的に発生するケースの違い・問い合わせ時のチェックポイントまで、宅建士の視点で整理してお伝えします。賃貸物件探しの参考にしていただければ幸いです。
おとり広告3つのパターン|来店すると「いま申し込みが入りました」

「おとり広告」とは、実際には取引できない(する意思がない)物件を広告に出し、問い合わせてきたお客様に別の物件を勧める行為を指します。
不動産の表示に関する公正競争規約では、以下の3パターンが「おとり広告」に該当するとされています。
そもそも物件が存在しない
架空の物件を広告に出すケースです。最も悪質なパターンですが、私が学生の頃はよく見かけました。
一応、物件は存在するが取引対象ではない
物件は実在するが、すでに契約済み、またはもともと募集していない物件を掲載するケースもあります。
「契約済み後も広告を削除しない」ケースもここに含まれます。
物件は存在するが取引する意思がない
物件は実在し募集中でも、広告主が実際には取引する気がないケースです。
「安い物件で客を呼び、別物件を勧める」のが典型的な手口です。
おとり広告に関する法的規制

おとり広告は、複数の法律・規約で禁止されています。
宅地建物取引業法32条(誇大広告等の禁止)
宅建業法では、著しく事実に相違する表示や、実際のものより著しく優良・有利と誤認させる表示が禁止されています。おとり広告はこの誇大広告に該当するため、同法違反となります。
違反した場合の罰則
監督処分として、指示処分・業務停止処分・免許取消処分の対象になります。さらに、情状が特に重い場合は刑事罰として6か月以下の懲役、または100万円以下の罰金が科される可能性があります(宅建業法81条1号)。
景品表示法・不動産公正競争規約
景品表示法第5条第3号に基づく「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)、および不動産公正取引協議会連合会が定める表示規約でも、おとり広告は不当表示として禁止されています。
近年は不動産公正取引協議会の処分権限が強化されており、厳重警告・違約金に加えて、違反業者のポータルサイト掲載を原則1か月以上停止できる措置も講じられるようになりました。これは掲載停止=集客停止を意味するため、業者にとっては重い処分です。
なぜおとり広告がなくならないのか

不動産業界の情報流通の仕組みが原因で、結果的におとり広告のように見えてしまうケースもあります。
空室情報はリアルタイム共有されていない
不動産の賃貸情報は、レインズという業者間のデータベースや、ポータルサイト(SUUMO・HOMES等)で共有されています。
ただし:
- 空室情報の更新には数時間〜数日のタイムラグがある
- 契約直前の物件でも、広告がすぐ消えるとは限らない
- 他社が申し込みを入れた時点で自動通知される仕組みはない
このため、問い合わせた時点では空いていたが、来店時にはすでに別の方が申し込み済みというケースが、人気エリアでは日常的に発生します。
人気エリアでは本当に案内中に埋まることがある
今はもう会社自体ありませんが、私がかつて働いていた不動産屋では、満室なのに常に広告だけ出している物件がいくつもありました。
問い合わせがあれば「まだ募集しています」と案内し、来店されたら「今ちょうど申し込みが入りました」と伝えて、条件に合う別物件へ誘導する――当時はそんな会社が珍しくありませんでした。
東急東横線・田園都市線・京浜東北線沿線など、競争が激しいエリアでは、内見の案内中に他社が申し込みを入れることも珍しくありません。
これは悪質なおとり広告ではなく、物件の流通スピードが速いことによる結果です。
インターネット普及後も完全には解消されない
情報インフラが発達した現在でも、このタイムラグの問題は完全には解消されていません。
「問い合わせた物件が見つからない=おとり広告」と単純に判断するのは早計です。
一般の人が見抜けない主な理由
- 空室情報がリアルタイムで共有されていない
- 他社が申し込みを入れても自動で通知されるわけではない
- 人気エリアでは案内中に埋まることが珍しくない
- ポータルサイトの更新に時間差がある
- 契約金を払うまでは仮押さえしてくれるとは限らない
見分け方|問い合わせ時のチェックポイント

一般の方が完全におとり広告を見抜くのは困難ですが、問い合わせ時の対応で注意すべきサインがあります。
注意したいサイン
- 同じ物件を複数のサイト・期間で掲載している
- 極端に相場より安い
- 物件の正確な住所が明示されていない
- 問い合わせ後、別物件ばかり勧められる
確認したい7つのポイント
部屋探しで問い合わせ・内見をする際に、以下の点を意識すると見抜きやすくなります。
- 物件の正確な住所を確認する
- 内見可能日を具体的に聞く
- 現在の入居状況(空室か契約中か)を尋ねる
- 同じ物件を扱う他の不動産会社にも問い合わせる
- 極端に相場を下回る物件は実在性を確認する
- 広告主の宅建業免許を確認する、協会に加盟しているか
複数社への問い合わせは有効
一つの物件は、複数の不動産会社が仲介できる仕組みです。
ある会社で「埋まった」と言われた物件を、別の会社に問い合わせたら「大丈夫」と言われたら怪しいです。
2022年9月の公正競争規約改正|新しい表示ルール
2022年9月1日、不動産の表示に関する公正競争規約が改正され、特にインターネット広告に関する表示ルールが強化されました。
主な改正点は以下の通りです。
交通利便性の表示
販売戸数2以上の分譲物件では、最も近い棟と最も遠い棟の両方からの徒歩所要時間の表示が必要になりました。
電車・バスの所要時間は、通勤ラッシュ時の所要時間を明示することが原則となり、平常時の所要時間を併記できる形になりました。
デジタル広告への対応強化
従来の新聞・チラシだけでなく、インターネット広告・SNS広告も規約の対象です。Web広告での違反事例も処分対象になっています。
こうしたルール強化により、不動産公正取引協議会による違反事例の公表も年々増えています。賃貸物件を探す際は、こうした背景も踏まえて情報を見ることが大切かもしれません。
まとめ|物件探しで大切なこと
おとり広告は法律・規約で禁止されていますが、発生を完全に防ぐことは難しいのが実情です。また、悪質なケースと構造的なケースの区別も、一般の方には判断が難しいものです。
大切なのは、焦って決めないことかもしれません。
「この物件しかない」と思って急ぐ心理は、冷静な判断を鈍らせます。時間に余裕を持って、複数の会社・複数の物件を比較することで、本当に良い物件に巡り会える可能性が高まります。
関連記事
- 亡くなった人がいる物件=事故物件?死亡と事故物件の違いと線引きを解説
- 賃貸退去時の原状回復どこまで負担?ガイドラインから学ぶ賃貸トラブル回避術
- 部屋探しで最初に必要な初期費用まとめ|賃貸契約前に知るべきお金とは?
- 住まいを選ぶ前にしておきたい広告の話 |不動産広告で間違えないための基礎知識
重要なご注意
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事業者・特定の物件に対する評価を行うものではありません。おとり広告に関する法的な判断・紛争対応については、弁護士・消費者センター・不動産公正取引協議会等の専門機関にご相談ください。

