公的年金制度では、支給事由(しきゅうじゆう)といってどのような場合に支給されるかが法律で決まっています。
支給事由はそれぞれなので、人によっては、自分の障害年金の受給権がありながら、親の死亡で遺族基礎年金の受給権もある人がいます。

このように複数の年金の受給権がある場合に、全ての年金を受け取れるかという問題があります。
1人1年金の原則とは
年金制度では、「1人1年金の原則」という原則があります。
年金には、国民年金と厚生年金とがありますが、1人が選択して受け取ることができる公的年金は、1つだけというのが「1人1年金の原則」のルールです。
しかし、実際には多くの年金受給者が国民年金と厚生年金を受け取っています。


国民年金は1階、厚生年金は2階の意味とは
国民年金は原則すべての国民が対象で、厚生年金は会社員が対象の公的年金です。
結構多い誤解が、厚生年金に加入していると国民年金の被保険者ではないというものです。
国民年金はすべての国民が対象なので、厚生年金に加入している人であっても国民年金の被保険者です。
厚生年金に加入している人は、国民年金にプラスして厚生年金に加入することになります。
国民年金が1階部分といわれるのは、全ての国民が対象となっており、厚生年金が2階部分といわれるのは、厚生年金に加入している人だけが年金の上積みがあるからです。

国民年金(老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金)といった1階部分があって、
上乗せとして厚生年金(老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)の2階部分があります。
複数年金の受給権がある場合は選択
年金制度では、1人1年金の原則によって、老齢、障害、遺族といった支給事由の異なる年金は同時に受け取ることができません。
なので、障害基礎年金のほかに遺族基礎年金の受給権が生じた場合はどちらかを選択することになります。
しかし、先ほど実際には多くの年金受給者が国民年金と厚生年金を受給しているといいました。
実は1人1年金の原則は、支給事由の異なる年金を受け取れないのであって、支給事由が同じであれば同時に受け取ることができます。
支給事由が同じ年金の例を挙げると、老齢であれば老齢基礎年金と老齢厚生年金、障害であれば障害基礎年金と障害厚生年金、死亡であれば遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。

仮に20歳から60歳まで自営業の人と会社員の人がいたとして、月収も同じ50万円くらいとしたら老齢年金の金額はどうなるでしょう。
自営業の人の場合は、国民年金だけなので年金は78万円です。
会社員の人は、国民年金にプラスして厚生年金があるので、合計で210万円くらいです。
65歳以上にも年金の併給が可能となる場合がある
複数の年金を受け取る場合を併給(へいきゅう)といいますが、65歳以上の場合に併給することが可能となる場合があります。
例えば、「老齢基礎年金と遺族厚生年金」、「障害基礎年金と遺族厚生年金」、「障害基礎年金と老齢厚生年金」といったものは併給が可能となっています。
また、65歳以降の妻は、自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金とが併給可能となります。ただしこの場合は、自分の老齢厚生年金が優先され、遺族厚生年金よりも少ない老齢厚生年金の場合に差額が支給されるという仕組みがとられています。
遺族厚生年金は老齢厚生年金の3/4
遺族厚生年金は、夫が受け取っていた老齢厚生年金の3/4になります。
以上のことを踏まえて例を挙げると。
夫の老齢厚生年金100万円
妻の老齢厚生年金25万円、老齢基礎年金75万円
夫が死亡して妻に遺族厚生年金の受給権が発生すると、夫の老齢厚生年金の3/4の75万円が受け取れることになります。
妻には老齢厚生年金が25万円受け取れますので、妻が本来受け取れる年金は優先されます。
なので、妻には、老齢基礎年金が75万円、老齢厚生年金が20万円、それにプラスして差額(75万-25万=50万)の50万円が遺族厚生年金として給付されます。
結果は、老齢基礎年金75万円+老齢厚生年金25万円+遺族厚生年金50万円=150万円となりました。
事例では、妻の老齢厚生年金の方が少ない場合でしたが、これが妻の老齢厚生年金の方が遺族厚生年金よりも多い場合は、遺族厚生年金が支給されません。
さらに妻が65歳以上だと
妻が65歳以上だと、さらに遺族厚生年金の2/3と妻の老齢厚生年金の1/2を足した額と比較して多いほうが給付されます。
上の例の場合は、遺族厚生年金3/4+妻の老齢厚生年金の方が大きいので上の例ということになります。
1人1年金の原則についてのまとめ
・公的年金は、すべての国民が対象の国民年金と会社員が対象の厚生年金とがある
・公的年金は原則「1人1年金」なので、複数の受給権がある場合は選択することになる
・支給事由が同じの場合は、国民年金と厚生年金が支給される
・65歳以上だと併給できる場合がある
・妻が65歳以上の遺族厚生年金は複雑

